スマトラ島沖地震支援事業 第二次中間モニタリング報告書
特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォームNGOユニット
7.モニタリング・視察結果
7−10.【インドネシア】「インドネシア津波・地震避難民へのAM/FMラジオ受信機配布プロジェクト」:BHN
- 調査日:2005年7月8日、および同月21日(日本におけるBHN面談)
- 調査団体名:ムハムディア(BHN現地協力団体)
- 記入者:田中洋人 伊藤亜紀
- 調査国・地域:インドネシア・バンダ・アチェ、東京
- 視察方法(聞き取り、訪問等):
- 聞き取り、事務所視察、現地調査、本邦調査(7月21日)
- バンダアチェ
- Mr. Irfan(ムハムディア 配布スタッフ)
- Mr. Jailani (ムハムディア ラジオ配布スタッフ)
- Mr.Azwar(ムハムディア ロジスティック担当スタッフ)
- Mr.Mustafa (Achehjaya被災者キャンプSapoine村コーディネイター)
- Ms.Rahama Wati(Achehjaya被災者キャンプSutibatia村女性コーディネイター)
- キャンプ内裨益者
- 東京
- 野中正晴氏(BHN事務局次長)
- 金子文雄氏(BHN技術担当)
- ムハムディア大学内同団体事務所 (アチェ市内)
- TVRI被災者キャンプ (同)
- Achehjaya被災者キャンプ(同)
1.事業目的 (事業計画書より)
約40万人の避難民は着の身着のままの状態である。働き手のほとんどは職がなく将来に対し不満な毎日を過ごす家族、親、兄弟、配偶者、子供の安否がわからない家族、家族や親戚、知り合い、友人の安否を心配する人々はマスメディアを通して情報を得る機会はほとんど持ち得ない。このため、こうした家族、人々にAM・FMラジオ受信機を配布することで不明者の安否情報、支援情報、社会・政治経済情報、教養番組、娯楽番組を聞くことで不安、ストレスを軽減できる。一方、学校、教師、級友を失い勉強するチャンスを失った子供達も多い。一挙に肉親を奪われ、無数の死体の中で暮らしたことがトラウマとなっている。ラジオ放送が学校へ通えない子供たちに対し教育番組や物語・音楽番組で心の傷を癒してくれる。
一家族平均5人構成とすると8万台のラジオ配布のニーズがあると推定される。
2.現地事情:(事業計画書より)
2月2日付けジャカルタ新聞では、アチェ州災害対策本部発表として同日現在遺体埋葬数約11万人、行方不明者約12.8万人、18県に66ヶ所の避難所があり、難民数が約41.2万人、避難所以外の難民が約26万人と報道されている。
離散した家族が多いが、公に発表された避難民数から平均的に一家族5人構成と考えると避難家族は8万家族となる。また、避難は免れてもラジオを含め家財道具を失った者も統計数字情報は得られないが、相当数に上る。因みに2月4日付ジャカルタ新聞では避難所以外に親戚、友人、知り合い宅に避難している人々は約26万人に上ると報道されている。
3.事業概要:(事業計画書より)
今回計画の配布先地域と台数はBand Aceh市から東100km離れた東海岸沿いのSigli市を中心としたPidie地区に2,000台、更に東へ100km離れたBireuen市に1,000台、合計3,000台のラジオ受信機配布を予定する。
4.第一期との変更点、改善が必要と思われた点等
なし。 今回の事業がインドネシアにおいて初めて実施される事業。
5.変更申請されたプロジェクト(詳細は支援プロジェクトに記入)
3月16日付けの変更申請により、ラジオ配布場所が治安事情により計画されていたピディ村よりバンダ・アチェ市内に変更された。配布個数3,000台の変更はなし。
6.視察所見
- プロジェクト所見
(1) | ジャパン・プラットホーム助成のラジオ配布プロジェクトは3月下旬で完了していた。配布されたラジオは被災者の重要な情報収集手段ならびに娯楽用品として活用されている。ラジオ配布の事業自体は問題なく実施され、裨益効果も大きいことが確認できた。特に、現在も定期的に行方不明者の情報がラジオで放送されており、多くの被災者は現在も行方不明となっている家族の安否確認のために欠かさず聴取しているところの裨益効果と支援インパクトはとても大きい。多くの被災者はラジオを大切に扱い、プロジェクトが喜ばれていることを感じさせられた。
その後行われた日本での聞き取りから、アセスメントらしいアセスメントが行われず、協力団体が支援を行っている被災者キャンプで支援が行われたということが判明した。さらにラジオの配布数もニーズから積み上げられたのではなく、当初から確保できるラジオの台数として3,000台という数が決まっていた。このため、アセスメントは不適切で、カバー数や裨益者数も一部キャンプでは支援の受けられない被災者もいたことが判明した。
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(2) | 変更申請がなされ、事業地がアチェ市内に限定されたために人件費、旅費や輸送費等のプロジェクト経費が削減された模様。しかし、それがどのように予算に反映されているかどうかは不明であった。それに関連し、BHNはJPF助成後に独自資金でラジオの配布を同じ協力団体を通して行っているということであったが(協力団体からの聞き取りより)、プロジェクト経費と会計管理がどのようにJPF助成金と区別されていたかは不明であり、資金管理の観点から問題である。
なお、これに関連しモニタリング後、BHNから予算修正書が事務局に対して提出された。
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(3) | ラジオは毎日使用されており非常にインパクトの強いプロジェクトであったが、電池の配布がその後一回だけと、収入源のない一部被災者においては電池を買えずラジオを利用できない世帯もあった。自立発展性と支援期間の問題もあるが、初期に電池を数個配布するなどの方法も検討されたい。なお、必要な電池は2個で、邦貨にして2個60円程度であった。
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(4) | ラジオには日の丸、BHNとJPFのロゴのシールが貼られていたが、英語であるため十分に被災者の理解を得られていたとはいいがたい。今後は現地語によるシールの貼付が望ましい。また、シールが紙製ではがれやすく、多くのラジオではがれていた。今後は丈夫なシールを貼ることもあわせて望みたい。 |
- 必要なアクション、是正措置
(1) | 上記のように、変更申請後の予算と会計処理について事務局に対して早期にその実態を明確にする必要があるだろう。
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(2) | 現地協力団体を通じての配布事業であり、日本人スタッフはプロジェクト立ち上げの初期に短期間しか滞在していなかったようである。プロジェクト管理・監督のためにも日本人スタッフの駐在が今後は望ましい。
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(3) | 必要なアセスメントは行われず、協力団体の支援する被災者キャンプだけを対象にしたのはプロジェクトの公平性、事業の透明性からも問題がある。このため早急にBHNにおけるプロジェクト実施要領の改善が求められる。 |
7.総括
モニタリング実施前から度々面談日時が変更され、何とか日本側担当者と現地協力団体との面談と視察日を設定したにもかかわらず、現地協力団体とのみ面談が実現した。さらに、BHN側がモニタリングに必要な通訳等の手配をするということであったが、同席した通訳(ムハムディア大経済学部教授)はほとんど英語を解せず、当方の手配した通訳で面談が実施された。一方、日本人担当者からは飛行機のフライトスケジュールによりモニタリングへの参加が難しいとの電話連絡があったが、その後一切連絡はないなど、聞き取りを含めたモニタリング活動が十分に実施出来ず、支障を来たした。このため、事業実施体制などの聞き取りや証憑類の調査など、モニタリングに不可欠な調査活動が一部不完全に終わったことは非常に遺憾である。
この結果、現地でのモニタリング実施後、現地で聞き取れなかった情報を得るためにジャパンプラットホーム事務所においてフォローアップの面談が事務局、モニタリングチームとBHN関係者によって行われた。この面談で事業に関する追加情報はえられたものの、事業計画、事業実施の方法などモニタリング時に出た問題点の調査結果はかえって悪化した。
まず、初期評価・アセスメントに関して協力団体が支援する被災者キャンプに支援が限定され、現地被災者のニーズアセスメントも十分に行われていなかった。配布対象にしても支援対象地域全世帯と効率が非常に悪くラジオ等を持っている世帯もあり重複が発生した。そして、配布数もニーズ調査の結果個数が決まったのではなく当初から3,000個と決まっていたため、同じキャンプ内でも配布が後になった住民の一部にラジオを貰えない被災者がおり問題となっていた。
次に、事業の実施は完全に協力団体に委託しておりBHNによるオーナシップは無かった。そればかりでなく協力団体とは覚書も結ばれず口頭だけの約束であった。さらに、必要書類、資金管理なども行われず事業実施体制もまったく整備されていなかった。
BHNの事業はこれまで見てきたように計画立案、実施体制ともに非常にずさんで不測の事態により事業が失敗する可能性が多々あった。このため現在の実施体制では今後、事業を進めるのは非常にリスクが高く、事業の質の維持、説明責任等の観点から、事業の調査、計画立案の段階から事業実施方法まで事業全体における抜本的な改善が望まれることを最後に記しておきたい。
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