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English




日本郵船、JPF共同
物資輸送プロジェクト


NGOからのニーズ
スマトラ島沖地震支援事業中間モニタリング報告書
特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォームNGOユニット

2005年3月
目 次
1.背景・・・・・・・・・・・・・・・3 
2.モニタリングの目的・・・・・・・・・・・・・・・3 
3.モニタリング対象事業・・・・・・・・・・・・・・・3 
4.モニタリングの視点、枠組み・・・・・・・・・・・・・・・4 
5.モニタリング方法・・・・・・・・・・・・・・・5 
6.モニタリング所見の記述方法・・・・・・・・・・・・・・・5 
7.モニタリング結果v・・・・・・・・・・・・・・・6 
7‐1難民を助ける会(AAR)・・・・・・・・・・・・・・・6 
7‐2日本紛争予防センター(JCCP)・・・・・・・・・・・・・・・8 
7‐3ジェン(JEN)・・・・・・・・・・・・・・・10 
7‐4セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)・・・・・・・・・・・・・・・12 
7‐5アドラ・ジャパン(ADRA Japan)・・・・・・・・・・・・・・・15 
7‐6ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)・・・・・・・・・・・・・・・18 
7‐7ピース ウィンズ・ジャパン(PWJ)・・・・・・・・・・・・・・・20 
8.まとめと教訓、そして提言・・・・・・・・・・・・・・・23 
8‐1まとめ・・・・・・・・・・・・・・・23 
8‐2課題と教訓・・・・・・・・・・・・・・・23 
8‐3提言・・・・・・・・・・・・・・・25 

モニタリング調査票

1.背景

2004年(平成16年)12月26日に発生したスマトラ島沖地震及び津波による沿岸国の被災者への支援を目的に、政府供与資金を活用してジャパン・プラットフォーム(JPF)参加NGOが現在、緊急支援事業を実施している。当事業の前に、事業形成上の計画精度を向上させる観点から地震発生直後の適切な実態把握のための初動調査を行なったが、その後の時間経過とともに被災および支援状況は変動し続けており、初動調査に基づいた承認計画との整合性の確保とともに、支援ニーズへの対処という観点から弾力的な事業実施も求められているところであった。そこで、下記を目的として、事業実施中のモニタリング調査を、2005年2月中旬から下旬にかけて実施した。


. モニタリングの目的

政府供与資金を活用して実施されているNGO緊急支援事業を対象に、現地の支援ニーズへの対処および計画との整合性の観点から、事業内容の妥当性、執行状況、執行体制の現状、についてモニタリングを行い、より効果的な事業および助成体制を促進する。

JPF参加NGOによる緊急支援事業、JPFによる助成のメカニズム等、今後の事業、助成体制に関する教訓を導き出す。


3.モニタリング対象事業

スリランカ、インド、インドネシアの3カ国で政府供与資金を活用して2月中旬当時、実施されていた下記7団体による事業がモニタリングの対象となった。


【スリランカ】:4事業
実施事業名 実施団体 実施期間*

ガール県避難民への生活用品緊急配布事業

AAR

05,01,07-05.02.20

トリコンマレー県環境整備等事業

JCCP

05.01.11-05.02.24

ハンバントッタ県における緊急生活用品配布事業

JEN

05.01.11-05.02.24

マータラ県における日常生活物資配給事業

SCJ

05.01.12-05.02.25


【インド】:2事業

実施事業名

実施団体

実施期間*

アンダマン・ニコバル諸島における伝染病予防教育及び
緊急支援物資配布事業

ADRA

05.01.11-05.02.24

タミル・ナドゥ州津波被害緊急支援

WVJ

05.01.13-05.02.26


【インドネシア】:1事業
実施事業名 実施団体 実施期間*

スマトラ島北部被災地における食糧・物資配給、医薬品供給事業

PWJ

05.01.11-05.02.24

*: 期間延長申請前

4.モニタリングの視点、枠組み

モニタリングの視点として、次の3点で各事業現地での事業関係情報の把握とともに、

(1)事業形成上の前提となる現地状況の再確認

(2)事業執行フレームの把握及び承認計画との整合性の確認

(3)ステークホルダーの意向聴取


モニタリングの枠組みとして、下記に示すように、事業内容面の妥当性、執行状況、執行体制の各側面に対して設定したモニタリング項目を調査した。


モニタリングの枠組み
側面 大項目 小項目

1.事業内容面

妥当性

プロジェクト

形成・初期評価

方法、情報源等

実施時期・期間、規模・深さ

その後の調査

支援対象

サイト、

対象住民の選択、カバー数

支援活動

配布(品目)、シェルター、水衛生(トイレ)、健康教育

執行状況


参画

計画立案、情報享受/意見表明

活動自体への参画

進捗状況

迅速性、計画からの遅れ

活動内容の変更

効率性

投入規模の妥当性

活動の効率性

連携

パートナーNGO

当該コミュニティ、政府機関

調整

重複回避

有効性

目標達成度

インパクト

好影響、悪影響

平和構築への影響

好影響、悪影響

次期の見通し

現在のニーズ、今後の計画



側面 大項目 小項目

2.執行体制面




資金管理体制

資金管理システム、現金管理

契約書類、証票、連携団体との調整、管理、為替レート

支援物資管理

入札、購入、物資在庫管理

関係団体との調整、資産管理

人事

数、配置、雇用手続き、賃金

労務管理

通信体制

安全管理

広報体制


5.モニタリング方法

(1)モニタリングチームおよび調査期間

下記の2つのモニタリングチームによって、モニタリングを実施した。


モニタリングチームの派遣地域、現地調査期間、構成
チーム 現地調査期間 調査者
スリランカ 2005年2月 9日〜2月19日 神谷 保彦、桑名 恵
インド・インドネシア 2005年2月15日〜2月28日 田中 洋人、長 有紀枝


(2)モニタリングデータ収集方法

各事業に対するモニタリングデータ収集のための調査は、実施計画書の検討、支援関係者(本部、現地スタッフ、連携先スタッフ、他)および受益者への聞き取り、被災および支援活動現場の視察、事務所訪問を通して実施した。


6.モニタリング所見の記述方法

上記の調査をもとに、各事業に対し、モニタリング所見のまとめとして、(1)全体所見、(2)プロジェクト所見、(3)必要なアクション、是正措置および(4)総括を記述した。

最後に、各事業のモニタリング所見を総合して、支援事業全体に関するまとめと教訓、そして提言を行った。


7.モニタリング結果


7‐1 難民を助ける会(AAR)
  • 調査日:日時 2月10日、11日、12日、18日
  • 調査団体名: AAR
  • 調査者:神谷保彦、桑名 恵
  • 記入者:神谷保彦、桑名 恵
  • 調査国・地域:スリランカ共和国ゴール県ハバラドゥーワ郡
  • モニタリング方法:スタッフ、政府関係者、受益者への聞き取り、及び支援活動の視察、ゴール市(県)ハバラドゥーワ郡配布先の寺院、配布先家庭訪問
  • 支援事業内容:Non-food items配布
  • 面談者:
  1. Mr. P Udeni Orol Dias セワランカコロンボ事務所
  2. 柴崎大輔氏(AARスリランカ事務所代表)
  3. Mr. Chandai セワランカゴール事務所長
  4. 受益者(ゴール県ハバラドゥーワ郡)
  5. Government Secretariat(郡、村レベルの政府役人)
  • 調査・訪問箇所:
  1. セワランカコロンボ事務所(2月10日)
  2. セワランカ、AARゴール倉庫(2月11日)
  3. ゴール県ハバラドゥーワ郡での配給活動(2月11日)
  4. ゴール県ハバラドゥーワ郡での配給活動(2月12日)
  5. セワランカゴール事務所(2月12日)
  6. AARコロンボ事務所(2月18日)

1.事業目的

津波被害で住居や家財を失い、避難民となったゴール県の住民3000世帯に対し、日用品を配布することで、最低限の生活基盤の回復を支援すること。


2.現地事情

ゴール県は大きな人的、物理的被害を受けた。事業実施地となった同県ハバラドゥーワ郡は、県庁データによると7,961名の避難者が出ている。コロンボからのアクセスはさほど悪くなく(車で3-4時間)、様々な国から供与のテントが街道沿いにみられるように、多くの援助が入っている。ただ、被害の甚大さから避難生活者がなお多く、ニーズが高い地域、状況である。食糧、水等のニーズは満たされつつあるが、日用品やシェルターなどの確保が急務となっている。


3.事業概要

  • 支援内容:台所用品を中心に家庭用品の配布
  • 支援対象者:避難民3000世帯(約10,000人)
  • 支援対象地:ゴール県ハバラドゥーワ郡

4.モニタリング所見

(1)全体所見

  • スリランカ南部の被害が甚大な地域であり、ニーズの高さとともに活動する援助団体も多いなかでの支援事業であった。そのため、事業基盤(体制)の整備や住民の巻き込みという面よりも、配布事業そのものの実施の迅速性、即応性、完結性を優先していた。
  • 配布事業の過程を通して、コミュニティへの関与を強め、コミュニティのエンパワーメントを促進している面があった。

(2)プロジェクト所見

  • 全般的に、配給物資は妥当であり、受益者にも役立てられていた。
  • 提携NGOのスタッフ、政府関係者、僧侶、コミュニティのボランティア、住民自身との連携(共同作業)及び、執行体制の簡素化により、プロジェクトを効率的にマネジメントしている。

    (3)必要なアクション、是正措置

    • 受益者選択は、郡長によるところが大きかったため、受益者選択の妥当性、公平性を確認するためにも、配布後の調査(配布を受けた各家庭での各品目の利用度、被災者の中で政府に未登録であることにより物資配給を享受できなかった家庭の有無など)が実施されれば、今後の事業体制に活かされると思われる。

    (4)総括

    • 特にフィールドレベルにおいて提携NGOとの連携が活かされ、ニーズの高い事業が迅速に実施されていた。緊急時のみに焦点を絞って、執行体制の負担を最小限に抑えていたことも、この事業の効率性、有効性を高めていたと考えられる。

    7‐2 日本紛争予防センター(JCCP)
    • 調査日:2月10日、15日、16日
    • 調査団体名: JCCP
    • 記入者:神谷保彦 桑名 恵
    • 調査者:神谷保彦 桑名 恵
    • 調査国・地域:スリランカ共和国トリンコマレー県
    • モニタリング方法:スタッフ、受益者への聞き取り、及び支援活動の視察
    • 支援事業内容:食糧、Non-Food Item配給、仮設住宅建設、住宅修復事業
    • 面談者:
      1. 菅谷渡氏(JCCPスリランカ事務所代表)
      2. 石田裕子氏 (トリンコマレー事務所プログラムオフィサー)
      3. Mr Indralal Jayasinghe(JCCP/セワランカトリンコマリ地域事務所プログラムオフィサー)
      4. セワランカトリンコマレー事務所フィールドオフィサーSamudragama避難民キャンプ担当
      5. セワランカトリンコマレー事務所フィールドオフィサーSalli避難民キャンプ担当
      6. セワランカトリンコマレー事務所フィールドオフィサーVellaimanal避難民キャンプ、仮設住宅建設地担当
      7. セワランカトリンコマレー事務所フィールドオフィサーNachikuda避難民キャンプ担当
      8. 受益者(各避難民キャンプ、仮設住宅建設地)
    • 調査・訪問箇所:
    1. セワランカコロンボ事務所(2月10日)
    2. セワランカ・JCCPトリンコマレー地域事務所(2月16日)
    3. Samudragama避難民キャンプ(2月15日)
    4. Salli避難民キャンプ、仮設住宅建設地(2月15日)
    5. Vellaimanal避難民キャンプ、仮設住宅建設地(2月16日)
    6. Nachikuda避難民キャンプ(2月16日)
    7. セワランカ・JCCPトリンコマレー倉庫(2月16日)

    1.事業目的

    トリンコマレー県において、生活物資配給、住居修復、仮設住宅設置の支援を通して、被災住民の被災民の生活環境改善を行うこと。


    2.現地事情

    トリンコマレー県では、津波のため住居が破壊された者は86,054人にのぼり、全国で4番目に被災者が多かった。支援開始時、食糧支援は行き渡りつつあったが、給水施設などが十分ではない状況であった。

    モニタリング当時は、集合避難所、テントから仮設住宅へ移行の時期であった。被災者の漁師の約三分の一が漁業に復帰していた。被災民の大多数に食糧は行き渡っているが、住居環境整備のニーズが高かった。

    3.事業概要

    • 仮設シェルターの設置(150棟)と半壊住宅の修復(199棟)
    • 戸別トイレ(67棟)・共同トイレ(6棟)の修復
    • 台所用品、衣類、その他生活必需品、食糧の配布(1030セット)

    4.モニタリング所見

    (1)全体所見

  • 援助が南部に比べて少なく、紛争の影響の大きい北東部において支援が行われていることは意義深い。
  • 物資配給に加えて、シェルター分野など複数分野における支援を同時に実施し、高いニーズへの対応し、アピール性の高い事業が行われている。
  • JCCPはスリランカでの活動経験あったため、トリンコマレーという初めての事業地においても、初動時のセットアップ業務が最小限に抑えられていた。
  • 提携団体である現地NGOとも以前から関係が構築されていたことで、提携団体と良好な関係が築かれ、効率的な事業が実施されていた。

    (2)プロジェクト所見

  • この時期に一番ニーズの高い、生活物資配給及びシェルターという2分野の事業を、4つのサイトにわたって、効率的に事業を実施しており、事業実施能力の高さが伺えた。
  • 現地パートナーとの連携(共同作業)のメリットを最大限に活かしていることが、効率性を高めている。

    (3)必要なアクション、是正措置

  • 現時点ではとくにないが、今後、配布、シェルターのインパクトの自己モニタリング、評価などが行われれば、さらなる事業の質向上に結びつくと考えられる。

    (4)総括

  • 緊急時の不安定な状況にもかかわらず、他団体の提携事業を行うことで、効率性、有効性が最大限に活かす事業実施体制が構築され、さらに複数分野をカバーしたニーズの高い支援事業が遂行されていたことは、高い評価に値する。
    7‐3 ジェン(JEN)
    • 調査日:2005年2月10日、13日、17日
    • 調査団体名:JEN
    • 記入者:神谷保彦 桑名 恵
    • 調査者:神谷保彦 桑名 恵
    • 調査国・地域:スリランカ共和国ハンバントッタ県
    • モニタリング方法:スタッフ、政府関係者、受益者への聞き取り、及び支援活動の視察
    • 支援実施内容:Non-Food Item配給
    • 面談者:
    1. Mr. P Udeni Orol Dias セワランカコロンボ事務所
    2. 青島あすか氏 JENスリランカ事務所代表
    3. Mr Kulasiri JEN Project Officer
    4. セワランカハンバントッタ事務所 Program Officer
    5. アンバラントッタ郡長
    6. 受益者(アンバラントッタ郡タワルウェラ村)
    7. 受益者(タンゴール郡セニモダラ村仮設住宅)
    8. 受益者(タンゴール郡テントに住む避難民)
    9. 受益者(タンゴール郡半壊住宅に住む避難民)
    • 調査・訪問箇所:
    1. セワランカコロンボ事務所(2月10日)
    2. セワランカハンバントッタ事務所(2月13日)
    3. セワランカ、JENハンバントッタ倉庫(2月13日)
    4. ハンバントッタ県アンバラントッタ郡タワルウェラ村配給(2月13日)
    5. ハンバントッタ県タンゴール郡セニモダラ村仮設住宅配給(2月13日)
    6. ハンバントッタ県タンゴール郡テントや半壊に住む避難民宅(2月13日)
    7. .JENコロンボ事務所(2月17日)

    1.事業目的

    津波被害で住居や家財を失い、ハンバントッタ県の被災した住民2000世帯に対し、日用品を配布することで、最低限の生活基盤の回復を支援すること。


    2.現地事情

    ハンバントッタ県は、多くの人的、物理的被害を受けたが、コロンボからのアクセスが悪く(車で約7時間)支援は行き届きにくい状況である。この事業の申請時、食料や衣類等のニーズは満たされつつあるが、日用品やシェルターなどの確保が急務となっていた。

    モニタリング当時では、同県は首相の出身地でもあり、シェルター支援分野において仮設住宅が見られるなど他の県よりも支援の進行が早かったが、生活用品のニーズは依然として高かった。


    3.事業概要

    ・ 支援内容:日用品セット(清掃用具、生活・家庭用品)の配布

    ・ 支援対象者:被災民2000世帯(約10,000人)

    ・ 支援対象地:ハンバントッタ県11郡中4郡(タンゴール郡、アンバラントッタ郡、ハンバントッタ郡、ティサマハラマ郡)


    4.モニタリング所見

    (1)全体所見

    • コロンボから片道7時間かかる事業地で、他の援助団体の支援が少なく、ニーズの高い支援分野に対応した緊急支援事業が行われている。
    • スリランカで支援を行う他団体と比較して、JENの事業では、現地NGOと提携しながらも、JENの現地スタッフを雇用し、JEN独自の二箇所の事務所設立(コロンボ、ハンバントッタ)を計画していることに特色がある。今後の長期のニーズや活動においても、柔軟に対応できるような配慮がなされている。

    (2)プロジェクト所見

    • 配給物資はニーズに即して妥当であり、受益者にも役立てられていた。
    • 緊急支援という状況においても、村レベルの委員会を作り、政府など既存のルートのみに頼らず受益者選定や情報収集をシステム化し、出来る限り公正さに配慮している点が特に評価に値する。これらのシステムは今後の長期復興においても、良いインパクトをもたらす可能性がある。

    (3)必要なアクション、是正措置

    • 遠隔地にある事業実施地域や人員の健康安全管理から考えると、国際スタッフの人員を計画通りにもう一名動員したほうが望ましい。

    (4)総括

    • 緊急時における時間の制約あったにもかかわらず、提携団体と連携しつつも、団体独自の運営システムの確立を行い、公平な受益者選定にも最大限の配慮がなされており、独自性の高い事業展開であった。今後の長期の活動にもスムースに連結できるシステム構築が行われ、戦略的にも価値があると考えられる。

    7‐4 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)
    • 調査日:2月10日、11日、12日
    • 調査団体名:SCJ
    • 調査者:神谷保彦、桑名恵
    • 記入者:神谷保彦
    • 調査国・地域:スリランカ共和国ゴール県ヒカドゥア郡、マータラ県ウェリガマ郡
    • モニタリング方法: SCJスタッフ、現地パートナー機関スタッフ、僧侶、受益者への聞き取り、支援活動の視察
    • 支援事業内容:Non-Food Item配給
    • 面談者:
    1. 渡辺鋼市郎氏(SCJスリランカ事務所代表)
    2. 武田和代氏 (SCJフィールドスタッフ)
    3. Mr. Gamini Samarasinghe, Save the Children in Sri Lanka(SCiSL)マータラ事務所Program Officer
    4. 現地NGO、DEIHERMゴール事務所代表
    5. 受益者(ゴール県ヒカドゥア郡仮設小学校(寺院)に通う子ども)
    6. 避難民(ゴール県ヒカドゥア郡避難キャンプ住民)
    7. 僧侶(マータラ県ウェリガマ郡配給場所)
    8. 受益者(マータラ県ウェリガマ郡)
    • 調査・訪問箇所:
    1. SCiSL コロンボ事務所(2月10日)
    2. SCiSL コロンボ市の倉庫(2月10日)
    3. ゴール県 DEIHELM 事務所(3月11日)
    4. ゴール県 DEIHELM 倉庫(3月11日)
    5. ゴール県ヒカドゥア郡仮設学校(寺院)の配給(3月11日)
    6. ゴール県ヒカドゥア郡避難民キャンプ(3月11日)
    7. SCiSL マータラ事務所(3月12日)
    8. SCiSL マータラ倉庫(3月12日)
    9. マータラ県ウェリガマ郡配布先家庭(3月12日)
    10. マータラ県ウェリガマ郡配給場所寺院(3月12日)

    1.事業目的

    被災住民、とくに子どもたちに対し学用品を配布することで、生活基盤、教育環境の回復を支援すること。


    2.現地事情

    ゴール県、マータラ県は、大きな人的、物理的被害を受けた。支援対象となるゴール県ヒカドゥア郡、マータラ県ウェリガマ郡では、県庁集計によると、それぞれ、2,450世帯、2,925世帯

    が被災した。同地域はコロンボからのアクセスは比較的良好であり、多くの援助が入っているが、被害が甚大であったため避難生活者がなお多く、ニーズが高い状況である。食糧、水等のニーズは満たされつつあるが、衣服、清掃具などの日用品、子どもの学用品が、シェルターの確保とともに生活の再建のために急務となっていた。


    3.事業概要

    ・ 支援内容:学用品セット、清掃具、衛生キット、衣服(普段着、下着)の配布

    ・ 支援対象者:避難民4,000世帯(約12,000人、物資により対象数は異なる)

    ・ 支援対象地:ゴール県ヒカドゥア郡、マータラ県ウェリガマ郡

    上記における活動が、SCJが属する国際NGOグループ内の団体であり、現地で20年以上活動するスリランカSave the Children in Sri Lanka(SCiSL)の枠組みの中で事業が実施された。


    4.モニタリング所見

    (1)全体所見

      スリランカ南部の被害が甚大な地域であったが、国際NGOグループの中ですでに確立されたシステムや現地の活発なNGOの活用により、事業面、執行面とも効率的で的確な支援事業が可能になっていた。
    • 今回のJPF資金による事業による広報が、一般からのファンドレイジングの促進に繋がったという利点も言及された。

    (2)プロジェクト所見

    • 倉庫管理などのロジスティックス、物資管理は、SCiSLの確立した既存のシステムを用いた上にSCJの国際スタッフ(計2名)がコロンボと現地に配置されていたため、きめ細かいモニタリングが行われ、事業が効率的に実施された。
    • 事業内容面では、時期や状況に応じたニーズに柔軟にくみ上げ、配布事業の妥当性、配布物資の利用度を高める配慮がされていた。
    • 執行体制において、国際NGOグループのシステムの活用により効率的な管理が可能となっていた。JPF資金は、SCiSLと契約に基づく書類上の管理が行われ、透明性が確保されていた。

    (3)必要なアクション、是正措置

    • 現時点では特にないが、今後、配布後の利用度や非受給者のモニタリングを通して、配布の公平性、有効性の再確認が望まれる。

    (4)総括

    • 情報収集システム、実施体制が確立し、質の高い事業が行える国際組織の利点と、SCJ独自の戦略(人材育成、ファンドレイジング)がうまく融合して、相乗効果をもたらし、ニーズに即した緊急事業が行われていた。

    7‐5 アドラ・ジャパン(ADRA Japan)
    • 調査日:2005年2月16〜17日
    • 調査団体名:アドラ・ジャパン(ADRA)
    • 調査者:田中洋人、長 有紀枝
    • 記入者:田中洋人、長 有紀枝
    • 調査国・地域:インド アンダマン・ニコバル諸島
    • モニタリング方法:

    ADRAポート・ブレア事務所での聞き取り及び現地視察

    • 支援事業内容:シェルター(テント配布)、感染症予防教育
    • 面談者:
    1. 豊田光明氏(ADRA INDIAアンダマン諸島事務所プロジェクトコーディネーター)
    2. 藤本純子氏 (ADRAジャパンプロジェクトオフィサー)
    3. Mr. PM Kenny同事務所 Relief Manager
    4. ポート・ブレア周辺の受益者
    • 調査・訪問箇所:
    1. アンダマン諸島避難民キャンプ
    2. 倉庫

    1.事業目的

    インド、アンダマン・ニコバル諸島で地震・津波により避難生活をしいられている住民に対し、生活支援物資を支給すると同時に、津波で被害を受けたコミュニティに、伝染病予防のため、視覚教材を使った伝染病予防教育を行い、伝染病の発生を防ぐ。


    2.現地事情

    インド洋のベンガル湾南部に位置し、インドの連邦直轄地域であるアンダマン・ニコバル諸島は、スマトラ沖大地震の震源域に近く、また海抜も低いため、多大な被害を受けた。

    申請書によれば、1月1日付けの行政の発表によるポートブレア及び周辺の被災者総数は

    アンダマン諸島被災者避難キャンプ15箇所(1845人)

    ニコバル諸島被災者避難キャンプが11箇所(4353人)


    3.事業概要

    (事業計画書より) (1)基本生活キット配布(200家族1000人+800家族4000人)
    家族用テント200張(200家族)
    毛布400枚(200家族)
    水タンク200個(200家族)
    蚊帳1000枚(1000家族)

    南アンダマン島において地震・津波により住居や家財道具を失った200家族に対し、家族用テント、蚊帳、毛布、水タンク(20L)を支給する。蚊帳は南アンダマン島の被災者(affected families)に留まらず、ニコバル諸島から避難し現在ポート・ブレヤの行政管理下にあるキャンプで避難生活をしている人々(800家族)へも支給する。


    (2)感染症予防教育(30箇所避難所5000人+20コミュニティ3000人)

    感染症予防教育チームは2チームにわかれ、1日に2ヶ所の避難所またはコミュニティをまわる。期間中、1箇所に対し3回のプログラムをおこなう。(延べ150回)

    プロジェクターを使い視覚を通して、家庭でできる浄水処理方法や、健康・公衆衛生の知識を広める。特に母親と5歳から12歳の子供を対象に伝染病予防教育などを提供する。

    また、プログラム後も避難民が常に保健衛生や飲み水に対する高い意識を保てるよう、理解し易い図式のポスターを作成し、キャンプやコミュニティ内のキーポイントに張り出す。


    4.モニタリング所見

    (1)全体所見

    • 国際NGOの傘下で活動しているため、これは海外のNGOの活動を規制しているインド政府の方針を考慮すると国際的パートナーシップは非常に有効である。

    (2)プロジェクト所見

    • シェルターを支援に選定後、ニコバル諸島の住民はテントを好まないらしいという調査結果もあったが、JPFの45日という事業期間を考慮し、緊急支援としてテントを選択した。緊急性と、また被災者の状況からテントという選択は妥当であった。
    • 感染症予防教育は、調査時点で感染症の大量の発生が見られないことから、初期の目的は達したものと推測される。他方、定期的にADRAチームが被災民キャンプを訪問し、母子双方を対象に、ゲームなどを交えつつ参加型のワークショップを実施したことは、娯楽の少ない被災民の生活に変化を与えるとともに、部外者による支援が精神的サポートにもなったと考えられる。受講中の母子を取り囲むように男性家族や老人が遠巻きに興味深げに見守る様に、プロジェクト以上の支援効果をもたらしていた。
    • 今後は、活動初期、拡大期には体制整備を含めて現地の関連NGOからの人的、技術的支援があると一層効果的だろう。

    (3)必要なアクション、是正措置

    • 事業については、感染症予防教育でパソコンを使った説明を電気の必要としない紙芝居への変更を提案したが、これらは既にADRA内部でも検討されていた。それ以外の事業体制は大きな問題もなく、順調に実施されていた。
    • 執行体制については、事務所立ち上げ直後ということもあり整備中であったが、現金管理、倉庫管理での伝票の導入、物品納入時の品質・量のチェック、雇用者の履歴書保管などの改善点が指摘されたが、執行上での大きな問題は無かった。

    (4)総括

    • 海外からの支援に閉鎖的なインド政府の政策に加え、軍事基地や少数民族問題が存在するアンダマン・ニコバル諸島において、現地のNGO化していたADRAインドとパートナーシップが存在していたので、今回のADRAジャパンによる活動は可能であり質の高い支援を実施できたといえるだろう。インドのように支援対象国での活動拠点をもたないJPFの加盟団体が出動しても、今回のように緊急事態に即応した援助は不可能であり、今後JPFによる活動拠点を持たない場合の支援方法の参考事例となるだろう。
    • 身の丈にあった援助活動を真摯に行う姿はNGO活動の原点を見るようであり、現地での活動はJPFの目的を達成していたといえるだろう。
    • 海外のNGOの活動を規制しているインド政府の方針を考慮すると国際的パートナーシップは非常に有効である。
    • 国際NGOとしての活動のため、ADRAジャパンとしての活動の印象は薄くなりがちだが、日本人が常駐し、ADRAジャパンのオーナーシップをもった活動をすることで、そうした短所を補っている。
    • 随所にJPFのステッカーや横断幕を張る等広報度は高い。

    7‐6 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)
    • 調査日:2005年2月18日〜20日 
    • 調査団体名:ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)
    • 調査者:田中 洋人、長 有紀枝
    • 記入者:田中 洋人、長 有紀枝
    • 調査国・地域:インド タミル・ナドゥ州ナガ・パティナム、カダロア両管区

    ・モニタリング方法:

    WVインディア(以下WVI)ナガ・パティナム事務所での聞き取り及び現地視察

    • 支援事業内容:シェルター(仮設住居の建設)
    • 面談者:
    1. 池田満豊氏(海外事業部緊急援助課長)
    2. 樋口博子氏(プログラムオフィサー)
    3. WVIスタッフ
    4. 仮設住宅使用者
    ・調査・訪問箇所:

    1

    1. ナガ・パティナム被災地
    2. 同仮設住宅サイト3箇所
    3. 同避難民キャンプ

    2

    1. カダロア被災地
    2. 同仮設住宅サイト

    1.事業目的

    スマトラ沖地震を端緒とする津波被害に遭ったインド タミル・ナドゥ州の被災者に対する仮設住宅の提供


    2.現地事情(申請書より)

    インドは、インドネシアやスリランカと比較すれば人的被害は相対的に少なかったものの、1月3日までのインド政府の発表によれば、9,479人がなくなり、約3,000人が行方不目になっている。但し、人的被害は受けなかったものの、家財道具や僅かな蓄え、家を津波に流されるといった被害を蒙った被災者の数は、今回の地震・津波の影響を受けた国の中で最も多い350万人に上るとされている。


    3.事業概要

    食糧や衣類、NFIといった物資支援は比較的潤沢にあるものの、こうした物資に比べコストが高く、知識やノウハウが必要とされる仮設シェルターの分野で活動する団体が極めて少ないことから、WVJでは、タミル・ナドゥ州ナガ・パティナム、カダロア両管区の被災者22,500人に対し、仮設住居4,500棟を提供する。


    4.モニタリング所見

    (1)全体所見

    • 資金の管理や物資調達の仕組み、事業の執行など、組織内のガイドラインに従い透明性の高い管理がなされており、国際NGOの利点を最大限生かした管理体制下にある。
    • 助成金の約40%を返金することになるが、その要因はWV側の運営管理体制の問題ではなく、インド政府の政策変更にあることから、やむをえない事情といえる。

    (2)プロジェクト所見

    • 様々なニーズの内、食糧、衣類、NFIについては、当初の30日間300以上のインド国内のNGOなどによりカバーされたこと、シェルターはある程度の資金力とエンジニアを雇用する必要から敬遠されがちであったことから、シェルター分野が選択されたが、ニーズからみても妥当な判断であったと考える。
    • ;緊急支援にもかかわらず、テントの配布ではなく仮設住居の建築になったのは、インド政府の意向であり、支援対象地域、仮設住居建設用地、仮設住居のスペック、1棟あたりの予算など、全てインド政府の指定やガイドラインの下に実施された。そうした制限された枠の中で、随所にWV独自の工夫(材質や工法など)が施されており、入居者の使い勝手に配慮し被災者の視点に立った質の高い事業となった。

    (3)必要なアクション、是正措置

    • WVJとWVIの連携事業であるが、申請書の作成に際し、連携の内容、日本人プログラム・オフィサーの役割などにつき、より詳細な記述が求められる。

    (4)総括

    • WVIの人的資源、情報、施設を共有することによって、国際NGOならではの効率的な支援が行われていた。
    • 建築済みの仮設住居には、1棟1棟にWVとJPFのロゴ表示がなされており、visibilityは非常に高い。仮設住居という、中長期にわたり使用されるものにこうした表示がなされていることは、JPFの広報面でも戦略的価値が高いものと思われる。

    7‐7 ピース ウィンズ・ジャパン(PWJ)
    ・調査日:2005年2月21日〜26日
    ・調査団体名:ピース ウインズ・ジャパン(PWJ)
    ・調査者:田中 洋人、長 有紀枝
    ・記入者:田中 洋人、長 有紀枝
    ・調査国・地域:インドネシア ナングル・アチェ・ダルサラム州(旧アチェ特別州、以下アチェ州)、バンダ・アチェ、ムラボ
    ・モニタリング方法:

    PWJバンダ・アチェ及びムラボ事務所での聞き取り及び現地視察

    • 支援事業内容:食糧及びNFI配給、医療支援、帰還促進(所得創出)事業
    • 面談者:
    1. 本理夏氏(スマトラ・チームヘッド)
    2. キャメロン・ノーブル氏(ムラボ事務所ヘッド)
    3. 木下真理氏(ムラボ事務所プロジェクト・コーディネーター)
    4. 西川正氏(ムラボ事務所プロジェクト・コーディネーター)
    5. 鈴木広光氏(ムラボ事務所ロジスティクスオフィサー)
    6. 山元めぐみ氏(バンダ・アチェ事務所プロジェクト・コーディネーター)
    7. 近藤真理子氏(バンダ・アチェ事務所プロジェクト・コーディネーター)
    8. 帰還促進事業従事者
    • 調査・訪問箇所:

    1 バンダ・アチェ

    1. バンダ・アチェ被災地
    2. 同プロジェクト・サイト(Lambaro Skep、TVRIキャンプ 被災民キャンプ)

    2 ムラボ被災地

    1. ムラボ被災地周辺プロジェクト・サイト(Alpen I&IIキャンプ、Cot Meeキャンプ、Woyla)
    2. コーディネション・ミーティング

    1.事業目的

    インドネシア・スマトラ島の北西部沿岸の都市ムラボ周辺ならびにその郊外ナガン・ラヤ県の町村、スマトラ沖地震を端緒とする津波被害のために、住居を失い避難所で避難生活を送っている被災民を支援するために、各避難所に分かれて生活する約2,000世帯(10,000人)の被災者を対象に、食糧、水、生活必需品等一式を配布する。

    さらに懸念される被災者の健康状態の悪化に即応しうるよう、必須医薬品や保健所のニーズに沿った医薬品をナガン・ラヤ県内6ヶ所の保健所に供給する。


    2.現地事情

    (事業計画書及び3月2日付け評議会向けPWJ報告書より)

    震源に最も近いスマトラ島北西部沿岸は海岸から数キロにわたり、壊滅的な被害を受けた。2月28日の時点のインドネシア政府の公式発表では、死者124,829人、不明者120,000人、国内避難民406,326人と言われる。スマトラ島の西海岸は、2月28日現在も、道路が流され空路でのみアクセスが可能な地域もあり、ヘリや船からの支援活動が行われている。

    西海岸の支援の拠点である都市ムラボを中心とする周辺4県(アチェ・ジャヤ県、アチェ・バラット県、ナガン・ラヤ県、アチェ・バラット・ダヤ県)の避難民は約40,000世帯。避難民キャンプは、NGOや国連が支援している5,000人規模の大型キャンプから、避難民が数十世帯の単位でテントを張り、あるいは公民館などに自発的に集まっている小規模キャンプまで、様々な形状がある。また、近隣のホストファミリーに身を寄せている避難民は、外部からの把握が難しく、これらの被災者の把握と支援が現地での課題となっている。

    さらに被害地アチェの分離独立を主張する反政府組織「自由アチェ運動(GAM、1976年結成)」とインドネシア国軍(TNI)との紛争も存在する。アチェ州は2003年5月以来、非常事態宣言下におかれ、外国人の立ち入りは厳しく制限されていた。地震直後この方針が3月26日までの期限付きで転換され、国連や援助関係者、各国軍、報道機関などに対し、州内の移動を含む自由な活動が容認されているものの、バンダ・アチェとムラボ以外では援助関係者もTNIによる付き添が義務付けられるなど、軍民協力に関する問題も発生している。加えて、多額の資金を集めた有力国際NGOが集中し、活動地や物資の配給をめぐり、調整が難航している。


    3.事業概要

    当初、被災民を支援するために、各避難所に分かれて生活する約2,000世帯(10,000人)の被災者を対象に、食糧、水、生活必需品等一式を配布し、また、懸念される被災者の健康状態の悪化に即応しうるよう、必須医薬品や保健所のニーズに沿った医薬品をナガン・ラヤ県内6ヶ所の保健所に供給する予定であった。

    しかし、事業開始後、世界食糧計画が大規模な配布を開始したため、PWJでは重複を避け食糧配布を中止。食糧以外の生活必需品の配布を増額するとともに、食糧事業は、瓦礫の撤去や壊れた道路・水路などの修復作業に従事する被災地の住民に手当てを支払う、帰還促進(所得・雇用創出)事業に変更した。


    4.モニタリング所見

    (1)全体所見

    • 震災直後から国際職員を多数投入し、国際NGOとして最初にムラボ入りし、事業を実施した、初動能力の高さは評価に値する。過酷な環境の中で早朝から深夜まで献身的に業務を遂行している日本人/国際職員の仕事振りにも高い評価を与えたい。
    • 前出の事業概要で述べたとおり、事業内容の大幅な変更があったが、モニタリング時点では、変更申請書が未提出であった(変更申請書は3月7日に提出され、同日付けで承認されている)。変更の内容、時期につき、PWJ、事務局双方で、手続きの見直しを含め問題点・課題の整理が必要となろう。

    (2)プロジェクト所見

    • NFI(食糧以外の生活必需品)の配布については、被災者の声に常時耳を傾け、他の団体と重複を避けつつ、援助物資を選定するなど、きめの細かい事業が実施されていた。
    • 所得・雇用創出事業も復興に寄与するのみならず、被災者を物心ともに支える、現地のニーズに即した意義ある事業といえる。

    (3)必要なアクション、是正措置

    • 大幅な事業変更があったが、PWJは事務局に対して、1月4日時点(申請書の締め切り日)での計画策定は不可能という意思表示を行っており、今後緊急事態の申請手続き中、締め切り等の設定についても事務局側でも再考が必要である。

    (4)総括

    • JPF参加NGOが多数スリランカに出動する中で、インドネシアに的を絞り、JPF内で最多の職員を派遣しつつ、国際NGOとしても最も早くムラボ地域で事業展開を行った迅速性、専門性は高く評価されよう。

    8.まとめと教訓、そして提言

    8‐1 まとめ

    今回のスマトラ沖地震津波被災者支援は、インド洋沿岸各国を巻き込んだ21世紀始めに起きた未曾有の大災害であり、ジャパン・プラットフォーム(JPF)同様、参加NGOにとっても困難かつ学ぶところの多い緊急援助となった。こうした状況の中、インド、インドネシア、スリランカの3カ国で実施されたモニタリング調査は、JPFとして初めての試みであり、今後の体制などに対してさまざまな教訓を与えた非常に有意義なものとなった。

    とりわけ、これまでの参加NGOによる緊急支援体制とJPFによる助成のメカニズム等についてさまざまな観点から再検討する大変良い機会となったといえるだろう。特にJPFにとっては初動から複数対象国において同時展開する緊急支援活動となり、さまざまな教訓と今後に向けての課題が浮き彫りになった。これは、JPF事務局の体制並びに資金供与メカニズム全体にも考察が及ぶ問題であるとともに、参加NGOによる事業自体も、そのあり方や方法などが問われるものとなった。

    さらなる議論は、各団体の緊急援助の終了後に実施される予定の津波被災者支援事業に対する評価を待って行われるであろうが、今回のモニタリング調査によって明らかになった多くの論点を現時点で整理するとともに、今後のJPFによる緊急援助助成のあり方を含めて議論することは、今後のNGOとそれを取り巻く環境を改善することの一助、特に緊急援助初動期から中期にかけての実施体制の更なる整備と支援活動の一層の充実につながるだろう。


    8‐2 課題と教訓

    (1)連携

    今回の緊急援助で、まず注目されるのが支援事業実施体制の枠組みであろう。連携によって構築された枠組みは、図らずもその枠組みの特長によりそれぞれのNGOが持つ強み、そして弱みの傾向につながっていたことがモニタリングで明らかとなった。この枠組みは大きく分けて3つに分類することが出来る。

    第一の枠組みは、参加NGO独自による援助である。本部から現場にいたるまで参加NGOにより独力で実施する体制である。今回はインドネシア・アチェ州におけるPWJの支援活動がこれに該当する。PWJは、ほとんど全ての支援活動を独自に実施していた。他団体との連携はバンダ・アチェ市内における被災者キャンプでの現地学生が組織した支援グループが実施する小規模な物資配布事業だけであった。

    第二の枠組みは、関係する国際的NGOのパートナーシップに基づいた支援であり、インドでのWVJ、ADRAJ、そしてスリランカにおいてはSCJによる活動である。WVJ、ADRAJ、SCJによる活動は現地NGO化した関係団体の既存の支援体制を活用して、JPF助成の支援を実施した。

    そして、第三の枠組みはAAR、JCCP、JENが取った現地ローカルNGOとのパートナーシップである。AAR、JCCP、JENは現地NGOとパートナーシップを結び、現地NGOの持つ支援体制を活用した。

    第一の枠組みの利点は自由度と柔軟性であろう。独自の方針と支援体制により現地の支援ニーズに即応した支援事業を実施できる点である。反面、課題としては支援活動が拡大すればするほど現場と本部に及ぼす管理面、事業実施体制に対しての業務の増大であり、タイムリーな人材確保や人材養成が早急に求められることである。

    また、第二の枠組みにおいては既存の関係NGOの現地組織や管理体制を活用することが可能で、実施体制整備に時間をかけることが最小限で済み、迅速且つ効率的な支援体制が初動時から構築出来る。また、迅速に事業の専門性や質が確保できる利点も大きい。一方、課題としては関係団体の現地組織をそのまま使うので日本側の「顔」が見えにくいことや、独自性を出しにくい面がある。また、多くの場合、各国の関連団体より資金が提供され、資金管理においては「コモンバスケット方式」が適用され、会計処理がプロジェクト終了時まで行われず、事業実施途中において資金の運用実態が分かりにくい点であった。同様にプロジェクトに従事するスタッフ管理においてもJPF助成による雇用体系の確認が難しい事例もあった。また、管理・監督面からも現地に入った邦人スタッフの事業に対する有効性や影響度を上げることも今後の課題だろう。

    そして、第三の枠組みにおいては連携した現地NGOの現地実施体制を活用することで初動体制が効率的に確立され支援事業が行われた。反面、連携したNGOを通して実施されたプロジェクトにおいて、短期間に効率的な連携を構築する難しさも見られた。とりわけ執行面においては、提携団体にJPF実施体制メカニズムを適用することが引き起こす摩擦も伺えた。また、プロジェクト期間が45日間と短く、関係構築のための連携先への負担も大きかったという指摘もあった。


    (2)初動体制

    初動体制において、各NGOは災害発生の翌日には調査隊を派遣するなど、対応が早く大きな成果があった。一方、同時に6団体がスリランカにアセスメント調査に出向き、4団体が事業を実施する反面、インドは2団体、インドネシアでは1団体だけと、その後明らかになったインドネシアにおける被害実態からすればJPFによる投入のバランスの悪さは否めない。多くの団体が予てから平和構築事業でスリランカでの事業開始の準備を進めていたことがスリランカへ支援につながる一要因となったようである。


    (3)プロジェクト期間・目標達成度

    今回の緊急援助は当初から45日間とプロジェクト期間が決められたが、プロジェクト目標を期日通りに実施・終了することに苦労した団体も多かった。調査期間の15日を含めても60日、2ヶ月間と、流動する現地情勢に対応しつつ事業をゼロから準備して支援プロジェクトを完了させるには非常に短いという意見が多く聞かれ、実際複数の団体から延長申請もしくは助成金の返上申請が出ている。このため、期間内の目標達成度も計画より低い傾向にあった。

    なお、今回はイラン地震の教訓から、緊急事態発生後から、初動調査、以後の事業申請における綿密なスケジュールが決められ実行されたが、災害ごとの不確定要素もあり、申請時期と現場のニーズの見極めに苦労した団体もあった。


    (4)   人員体制

    緊急支援体制構築にあたって、迅速に新しくスタッフを採用し、参加NGOにおける人材の広がりが見られた一方で、事業実施に必要な人員の確保が困難となる団体もあった。必要な人役を措置できなければ、スタッフへの負担増や事業の効率、質の低下に繋がり、事業全体に及ぼす影響が大きい。今後は人役措置において、大きな変更がある場合は、その都度JPF事務局と協議する必要性があると思われる。また、団体内の既存のスタッフを流用する場合も、団体の事業全体に及ぼす影響を考えて判断されるべきである。

    中長期の対応策としては、緊急支援分野における人材が比較的少ない中、JPFに人材バンクやロスター制度を設けることを検討することも望まれる。


    (5)広報

    JPFの広報については概ね良好であった。JPFのステッカーを配布物資に貼ったり、事業地に看板を立てたりしていた。その中で、JPFの現行のステッカーでは、JPFが何であるか分からず、「ジャパン」だけが理解されているという指摘もあった。一方、安全管理または政治的理由で支援活動そのもののビジビリティーを下げているか無くしている事業もあったが、その際は事務局とその旨協議する必要があるだろう。


    (6)JPFメカニズム

    今回のスマトラ沖津波被災者支援事業に対するモニタリング活動を通じて上記に挙げたさまざまな事業実施における課題が浮かび上がったが、これはJPFの現行の体制と表裏一体の関係にあるといえるだろう。つまりNGO側、もしくはJPF事務局のどちらか一方に問題があるのではなく、現行のJPFの体制、助成制度に根差したものであるといえるのではないだろうか。設立後5年は経たものの、まださまざまな面で発展途上にあるため、今回の緊急援助において浮かび上がった多くの課題もこうした文脈で捉えるべきものであろう。

    例えば、緊急時の状況変動(ニーズ、実施可能範囲など)に対し、今回多くの実施NGOが、計画時の事業内容からの変更の際、対処に問題が生じた。この課題に対しては、変更の妥当性を見極めるタイムリーなJPFモニタリング体制確立や透明性のあるガイドラインを構築することが早急に必要であると考える。


    8‐3 提言

    (1)連携

    今回のような大規模な災害支援において効果的かつ効率的に緊急援助を実施するためには、参加NGOの中で、もともと現地で活動しているNGOを除いては現地を良く知るNGOとの連携は不可欠であろう。こうした連携を緊急時において迅速に進めるためにも、JPF事務局側が各国のNGOコンソーシアムの連絡先など情報整備を行うことも必要であろう。また、国際NGOとのパートナーシップにおいては単なる資金提供団体とならないような、資金管理、プロジェクトの管理監督を含めた我が国NGOの緊急援助活動を支援するというJPFの趣旨に合致したパートナーシップのメカニズムが導入されることが求められる。


    (2)初動体制

    初期調査から案件実施までに必要以上に時間がかかったという指摘があった。

    今回支援を実施した7団体中6団体は、初動調査を最初の15日間に、支援活動を後の45日間に実施するという体制であり、6団体は物資配布を実施しており配布物資においても共通部分があった。このため、緊急援助初期の際に被災者が必要な物資は食糧、医薬品、衣料等ニーズは共通のことも多く、初期調査時に共通の物資パッケージを配布したり、一部の物資を事前調達したり確保するという方法も検討するべきであろう。さらに、JPF事務局が初動体制から現地に入り、JPF参加NGOの案件立案や実施をより迅速に、円滑にする体制構築も求められる。

    多くの団体がスリランカ一国に支援活動を実施したことから、今後はジョイントミッションや、緊急援助後の支援国の変更・拡大など柔軟にNGO、JPF事務局双方の対応出来るよう検討が望まれる。

    また今回は、一昨年のイラン地震に続き、災害発生時は年末休暇にかかる時期であったものの、日ごろの準備が生き、JPFメカニズムにおいて最善の対応がなされてきた。今後においても、引き続き長期休暇・連休中の災害発生に備えたさらなる緊急対応体制の整備が必要であろう。


    (3) プロジェクト期間・目標達成度

    プロジェクト管理に必要とする経費は返上されないので、今後はどの程度の達成率で延長申請を認めるのかの判断、目標未達成で助成金返上の場合の助成された管理費部分の扱い方や助成申請の妥当性などの協議とそのガイドライン作りが必要になろう。さらに、NGOの管理面での作業量や復興フェーズへの移行も視野に入れながら、緊急援助期の事業期間を延長する方法もJPF側で検討する必要があろう。


    (4)広報

    現地での広報はビジビリティーを含め一部を除いて概ね良好であったが、今後は国内における実施中のプロジェクトの広報も強化する必要があるだろう。

    また、今回のJPF支援事業においては、JPF東京事務局からから広報グッズ(旗など)の現地到着が遅れた。現場で迅速に安価で調達できると判断された際は、広報キット(版下のCD-ROMなど)を用意することで、参加NGO各自が現場の状況に応じたタイムリーなJPF広報グッズが準備でき、より充実した広報体制が構築できるものと考えられる。


    (5) 事務局体制

    これまでに挙げられた課題はJPFの「raison d’etre」、存在意義に直接関わってくるものであり、今後JPFとして何を目指していくのかが大きく問われることになるだろう。特に、我が国NGOのキャパシティービルディングと緊急支援実施体制整備を進めるということをJPFの大きな使命とするならば、そもそも我が国のNGOによる緊急援助活動とは何か、そしてその範囲と条件という基本理念も整理されるべきものではないだろうか。そうした中で、JPFとして公的資金の管理を委託された機関として助成するNGOに対する管理を強化するのか、信義則によるNGO側の自主管理と自制を望むか、そのバランスを取ることは非常に困難な問題であり議論が待たれる。

    今後はこれまでに挙がった課題を、参加NGOとよく議論の上、緊急援助活動におけるさまざまな状況でのガイドラインとして取りまとめていくことが必要であろう。そして、今回のモニタリング調査で抽出されたさまざまな課題を今一度、評価時に再検討して具体的な行動指針としていくことが望まれる。

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