スマトラ島沖地震支援事業 第二次中間モニタリング報告書
特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォームNGOユニット
7.モニタリング・視察結果
7−3.【インド】「リトル・アンダマン緊急復興事業」:ADRA
- 調査日:2005年6月4日〜6月12日
- 調査団体名:アドラ・ジャパン(ADRA)
- 記入者:田中洋人 伊藤亜紀
- 調査国・地域:インド アンダマン・ニコバル諸島
- モニタリング方法(聞き取り、訪問等):
ADRAポートブレア事務所(南アンダマン島)ならびにハットベイ事務所(リトルアンダマン島)における聞き取り、現地視察
- 豊田光明氏(ADRA INDIA アンダマン諸島事務所プロジェクトコーディネイター)
- 藤本純子氏(ADRA ジャパン プロジェクトオフィサー)
- Mr. PM Kenny(同事務所 Relief Manager)
- Mr. Mohammed Asif(同事務所 Project Manager)
- Mr. Sumrit Chadury(インド政府ニコバル・アンダマン管区事務所 Executive Engineer)
- Mr. Ak Dutta(同事務所 Assistant Engineer)
- 被災者住民
- ADRA ポートブレア事務所
- ADRA ハットベイ事務所
- ハットベイ 各プロジェクト実施箇所
- 被災地
- ハットベイ周辺地域
1.事業目的
インド、アンダマン・ニコバル諸島で地震・津波により避難生活をしいられている住民に対し、第一期では、南アンダマン島ポートブレア周辺においてテントなどの緊急支援物資を配布および伝染病予防対策を行ってきた。今期では、ポートブレアから離れて位置する、特に被害の大きいリトルアンダマン島において、仮設住宅建設などに加え、第一期でも行った伝染病予防教育を組み合わせて支援する。
2.現地事情:
インド洋のベンガル湾南部に位置し、インドの連邦直轄地域であるアンダマン・ニコバル諸島は、スマトラ沖大地震の震源域に近く、また海抜も低いため、多大な被害を受けた。
申請書によれば、1月1日付けの行政の発表によるポートブレア及び周辺の被災者総数は
アンダマン諸島被災者避難キャンプ15箇所(1845人)
ニコバル諸島被災者避難キャンプが11箇所(4353人)
3.事業概要:(事業計画書より)
リトルアンダマン島の被災者の自立を促し、住居、医療、生活必需品などの面から、彼らが元の生活環境に戻れるよう、下記の項目を目的として支援をする。
事業地: |
リトルアンダマン島 |
目的1: |
雨季に備え、現在キャンプでテント生活を強いられている避難民のため仮設住宅の建設 |
目的3: |
仮設住宅地のコミュニティのための井戸建設 |
目的4: |
避難民キャンプまたは仮設住宅地で伝染病の発生を防ぐため、視覚教材を使った伝染病予防教育 (前事業からの継続) |
(1)仮設住宅建設(500世帯)
政府は雨季が始まる前までに、ハットベイにて2,050件の仮設住宅の建設を行うことを表明した。政府は土地、資材、建設計画等を提供し、NGO(5団体)が協力し、実際の建設を行う(添付資料参照)。ADRAは500世帯の建設を請け負う。
行政は、土地、資材を準備、NGOは工具、人材を準備し、建設する。
ADRAは、建設の職人50人を雇用する。職人10人と1チームとなり、1チーム100軒の仮設住宅を建設する。なお、1軒当たり、10人のUnskilled Laborを雇用し建設を手伝う。
建設場所に関しては、現在行政の中で調整しており、2月25日には発表される予定になっている。
(2)仮設(Intermediate)保健所建設(3件)
Harminder Bay、Netaji Nagar、Ramakrishnapur地域の保健所(サブ・センター)が被害を受け、各所でのサービスの提供が滞っている。ハットベイ中心地にあるプライマリー・ヘルス・センターは現在、政府により修復作業が行われているものの、仮設住宅地は郊外のジャングルを切り開いて建設されるため、そこに住む避難民がアクセスできる仮設保健所の建設は必要不可欠である。
この仮設保健所は仮設住宅の居住区において診療所の役割をおう。場所に関しては、仮設住宅と同じく行政との調整の上、決定される。
なお、行政の計画では、仮設住宅と仮設保健所は、行政が定める期間(2年くらいの予定)後、撤去し、仮設居住地となっていたところは、植林など行い元の自然に戻す予定である。そのためできるだけコンクリートを使わない方法で建設をおこなう。
(3)井戸建設(10本)
これまでハットベイの多くの住民は飲み水・生活用水として井戸水を使用していたが、地震・津波により多くの井戸が破壊、または汚染されたため、2月15日現在も政府が各キャンプへ飲み水を配給している。汚染された井戸の浄水作業を予定しているNGOはいるが、仮設診療所と同じく仮設住宅地はジャングルを切り開いて作るため、井戸(水の確保)が必要となる。仮設住宅地に10本の開放井戸(Open well)を建設する。建設場所は、仮設住宅と同じく行政との調整の上、決定される。
(4)伝染病予防教育(避難民キャンプ6,000人+コミュニティ)
プロジェクターを使い視覚を通して、家庭でできる浄水処理方法や、健康・公衆衛生の知識を広める。特に母親と5歳から12歳の子供を対象に伝染病予防の教育を提供する。雨季が始まり、蚊も増加し、衛生への配慮が更に必要とされる。
4月中旬までは避難民キャンプを巡回、その後仮設住宅地とコミュニティを巡回する。感染病予防教育は3回で1セットとなっているが、各所毎回、出席者名簿を作成し、出席管理をおこなう。
【最終裨益者見込数:24,000人】
4.第一期との変更点、改善が必要と思われた点等
今回の活動はリトルアンダマン島に移って実施された。
これは、被害が甚大にも関わらず、第一期の活動拠点であるポートブレアから遠く、支援が行き届かなかったため、第二期における活動の場として決定したものである。
第一期のモニタリングにおいては主に執行体制について改善点が指摘された。金庫の位置、倉庫管理伝票の導入、物品納入時の品質・量のチェック、スタッフの履歴書提出の義務化であるが、これらはすでに改善されている。(詳細は次ページ以下、項目ごとに記述。)
第一期と同様のプロジェクトである伝染病予防については、スタッフの反省にあったように、コンピューター画像を用いた視聴覚教育が高度すぎたので、今回は紙芝居を中心に行っている。
5.変更申請された点
- 仮設住宅建設において、当初500世帯分建築予定が、400世帯に変更。これは行政よりの要請で、理由としては建設地の土地の広さの問題や、他NGOの建設住宅数と差が出すぎないように規模を平準化するためであった。
- 仮設保健所建設において、活動期間の一ヶ月延長の申請予定。理由は、モンスーン前に被災者を収容するための仮設住宅建設の優先度が高く、行政の強力な要請もあったこと、よって仮設保健所の建設がモンスーンの時期に差し掛かってしまい、作業が難航する事態となったためである。
- 井戸建設において10本の予定が9本に変更。行政による掘削地選定の結果、井戸の数が減った。
6.モニタリング所見
- プロジェクト所見
- 4件あるプロジェクトのなかで最大の部分である仮設住宅建設は無事終了していた。モンスーンの本格的到来前に全棟完成したことは住民の生活を安定させるためにも非常に有効である。住宅の質も良く、聞き取りをした政府関係者からの事業に対する評価は高い。
- 建設地の選定を始め、資材の輸送を含めてインド政府がすべて提供する形で実施されたため、提携NGOの自主性が弱まったきらいがあるが、インド政府の特別管理地域という現地の事情を考慮すると仕方のないことであっただろう。
- 他の事業も保健所建設以外は順調に進行していた。井戸掘削は、原住民とインド人住民との紛争予防を考慮し、双方が平等に使用できるよう原住民地域にも水源を確保したことは評価される。また、伝染病予防教育も、住民の理解を十分に得られるようプレゼン方法、器材に工夫を凝らしていた。なお、保健所の建設が遅れていたのは仮設住宅建設に全力を投じていたためである。この選択の結果、モンスーン前に住宅が完成したことは、住民に対して大きな裨益効果を生んでいるので、良い判断であったと言えるだろう。
- 必要なアクション、是正措置
- 奥地の島に、日本人女性スタッフが一人だけで配置されているので、支援体制と安全管理の面で徹底する必要があるだろう。
- ポートブレア事務所の総務担当責任者の責任分散と事務量の軽減が前回も指摘されたが、今回も同様の状態が続いていたので、早急の改善を望みたい。
7.総括
過酷な条件の中での事業実施であり、現地スタッフ、日本人スタッフの苦労がしのばれる。
- 第一期の事業の結果も良好で、現在でも多くの物資が一部耐用期間を過ぎていても利用されており、聞き取りを実施した多くの被災者住民がADRAに対する感謝の言葉を述べているなど、プロジェクトの裨益効果は大きい。また、仮設住宅がモンスーン前に完成するといった、第二期のプロジェクトの裨益効果も大きい。
- インド政府より提供された資材の一部の材料である柱が、木製から鉄パイプへと変更されたため、溶接に多額の費用が発生した。事業の縮小という選択もあったが、自己資金を投入して全戸建設の計画を実現した。
今後の課題として、自己資金がない場合、ジャパンプラットホームとして事業実施中の資金の追加方法とそのガイドライン、あるいは資金の手当てのない場合の縮小方法とそのガイドライン、などについて検討する必要があるだろう。
- インド政府が決めた仮設住宅計画だったが、400世帯全別に個別のトイレ、沐浴室を建設するなど効率と費用の面で問題点が見られた。今後復興支援に移る中、住民による自主的維持・管理やゴミ処理の問題など、住民の意識向上、教育などをテーマにしたプロジェクトも必要とされるだろう。
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