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Andaman and Nicobar Islands Earthquake and Tsunami Disaster 2004
調査報告書
任務: | リトル・アンダマン島、ハットベイにて被害状況の調査 |
調査期間: | 2005年2月4日−2月5日 |
調査目的: | ハットベイでのADRAの支援の必要性とその内容を確認する |
調査担当: | 藤本 純子(ADRA Japan) |
調査地: | インド連邦直轄領、アンダマン・ニコバル諸島、アンダマン地区、リトル・アンダマン島、ハットベイ |
背 景
ハットベイは、インドネシア北西部の海に浮かぶリトル・アンダマン諸島南東海岸沿いに位置する居住地である。震源地から数百マイルという距離にあるハットベイでは、2月9日現在、死亡者は41人と発表されているが、実際は100以上であるだろうとも言われている。
アンダマン・ニコバル行政によると2月9日現在、ハットベイには7つの避難民キャンプが存在し、合計6,846人の避難民が集団生活を強いられている。地震・津波以降4,304人が南アンダマン島、ポートブレアに避難している。現在でも14人が行方不明とされている。
ハットベイの港は大きな被害を受けており、運営に支障をきたしている。道路は港からマーケットまでの4Kmとジャングルまでの4Kmは使用可能な状態であるが、それ以外は現在修復作業中である。
Source: Ministry of Home Affairs, Andaman and Nicobar Acministration; The Week, 21 Jan, 2005
学 校
ハットベイには合計11の公立学校があり、そのうち7校は地震・津波により大きな被害を受けた。被害を受けた7校のうち、2月5日現在で授業を行うことができる校舎は、Government Model Senior Secondary Schoolの1校である。
ニコバル先住民族居住区にあるHarminder Bay Schoolは一番大きな被害を受け、建物の半分は跡形もなく津波に流されている。Harminder Bay Schoolの生徒は現在、キャンプに留まるかまたは、近隣の学校に通っている。次に被害の大きかった学校は、Government Model Secondary School(GMSS)である。GMSSでは被害を受けなかった少数の教室で授業を継続している。キャンプで生活をしている避難民はいまだ彼らの習慣に戻ることはなく、学校に通う生徒の数も少ない。本土に避難した家族も多く、通常約1,600人の生徒が通うGMSSでも現在は400〜500人しか通学していないという。
Affected Govt. School in Hut Bay
Govt. Primary School
- Annanagar Primary School
- Selon Bastsi Primary School
- Nanjapa Nagar Primary School
Govt. Secondary School
- Harminder Bay School
- Selon Bastsi Primary School
- Nanjapa Nagar Primary School
- Govt. Model Senior Secondary School
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GMSSの教頭、Mr. Rajappanによると、その他被害を受けた学校はPanju Tikery Campの近くにあるAnnanagar Primary SchoolとBreak Water Schoolである。これらの学校の建物は健在だが、壁の至るところにひびが入り、安全対策のため閉鎖されている。
また、小学校の教師はハットベイの7つの避難民キャンプに振り分けられ支援業務に当たっているため、小学校はいまだ始まっていない。
あるNGOは合計10の仮設教室(Harminder Bayに5教室、GMSSに5教室)の建設を表明しているとの話しがあるが、詳細は確認されていない。
ハットベイにあるすべての公立学校を統括しているGMSSの校長によると、現在はまだ教室の不足は大きな問題にはなっていないが、避難民キャンプで生活する生徒やポートブレアや本土に避難している生徒が戻ってくると、現在の教室の数では足りなくなるであろうと懸念されている。
GMSSの教師であるMr.Mohameed Asifによると、約50人の男子生徒と約40人の女子生徒(13歳から17歳)が10kmほど離れた村から毎日GMSSに通学している。彼らは通常、海岸線を走るバスで通学しているが、津波により道路が一部破壊されたため、途中でバスを降り、ジャングルの中を4時間ほど歩かなくてはいけない。これにより生徒は毎日の通学は困難であるとのこと。5月第一週目のnational examを控え、生徒たちは学校に通えないことを不安に感じている。ハットベイに彼らが宿泊できる寮などがあれば、彼らもnational examに向けて勉強に専念することができるだろう。
医療/保健サービス
ハットベイのPrimary Health Centerが地震・津波により、半壊したため、現在は行政から派遣された3人の医者、3人の看護師がゲスト・ハウスを仮Primary Health Centerとして医療サービスを提供している。そこには5台のベッドがあり、今後も数台のベッドが到着する予定。政府は現在、Primary Health Centerの修復作業にあたっており、数週間以内に医療サービスをもとの建物に移す予定とのこと。
Health Statistics and Number of Health Centers in Little Andaman
Doctors | 5 |
Nurses | 3 |
Primary Health Centers
PHC Hut Bay
PHC R.K. Put
| 2 |
Sub-Centers
Harminder Bay (Hut Bay)
Netaji Nagar (Hut Bay)
Rabinder Nagar (R.K. Pur)
V.K. Pur (R.K. Pur)
Dugong Creek (R.K. Pur) | 5 |
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仮Primary Health Centerで医療サービスを提供しているChief Medical OfficerのDr. Mohammed SammiとDr. Dubeyによると、彼らはゲスト・ハウスでの診療の他、定期的に各キャンプを回り避難民の診察やアンチ・マラリア・スプレーなどでマラリア対策もおこなっている。彼らの定期的な訪問診察以外にも、2つのNGOがキャンプで医療サービスを提供し、保健教育もおこなっている。Voluntary Health Association of India(VHAI)というNGOはNanjapa Nagarにてテントの仮保健所を構え、4名の医師と2名の看護師で医療支援をおこなっている。数ヵ月後にはHarminder Bay、Onge Tikery、Panju Tikeryにても同様の支援を予定しているとのこと。
Director of Health ServicesのDr. Nanita Ali によると、ハットベイにあるPrimary Health Centerと3つのsub-center(ハットベイのHarminder BayとNitaji Nagar、R.K. PurのDugong Creek )が大変大きな被害を受けているという。現在、123人の患者が治療を受けており、うち17人が下痢、17人が発熱と報告されている。
水
2月5日現在も飲料水は消防署が各キャンプに配給している。Padauk Tikeryキャンプでは、パイプラインがひかれ一日に一時間のみ水がキャンプまで届くようになっている。消防署が配給する飲料水は居住地から数キロはなれた場所にある3つのため池から調達し、浄水してから飲料水としてキャンプへ配給している。
ため池の一つは避難民が体を洗ったり、洗濯をするのに使用することができる。しかし、このため池は彼らの居住地から4Kmほど離れているため、避難民にとってはとても不便な水源である。以前はこの島の住民は井戸水を主な水源としていた。多くの場所では、各家庭に専用の井戸を持っており、また数世帯で1つの井戸を共有している場所もあった。パイプラインがひかれている場所もあったが、やはり一日一時間程度に限られていたので、住民は井戸水を生活水の基本としていた。
よって、井戸の建設は住民(避難民)の給水問題にとって、適切な解決策となると考えられる。Former Joint Director of Agriculture Department であり、地殻専門家であるA.K. Biswas氏の助けをかり、10ftから30ft掘れば飲料水として安全な水が出る場所を確認した。
Harminder Bayに住む1,201人のニコバル先住民族は津波により彼らのココナッツ農園を含む住居地が被害を受け、現在は農園の奥に住居を移している。彼らは生活を支えている農園も持ち、すでに避難先の住居で彼ら独自の生活が始まっているため、その近辺に3−4個の井戸を建設すれば、大変効果的に利用されるだろう。彼らが以前使用していた井戸で、残っているものでも、海水に汚染されていたり、新しい居住地から遠く不便である、という話をうけた。
政府は今後も定着地として定めるだろうと言われている、Panju Tikeryでは現在のキャンプの横にはジャングルがあり、専門家によると15ftから30ft掘れば、飲み水にふさわしい水がでてくるとのこと。Pandauk Bagicha付近では10ftから15ftで十分とのこと。
ADRA以外、井戸建設を行う団体はいないこともあり、現地行政もこの件に関しては、興味をしめしている。そして、井戸建設には特別な許可などは必要ないため、NGOには今すぐにでも始めて欲しいとのこと。
生計の再建
キャンプで暮らす避難民は様々な生活物資や調理された食事を毎日無料で与えられている。そのため仕事復帰への意欲がなく、現地行政はこういった現状を問題視している。
Assistant CommissionerのRagesh Kumar氏はNGOには人々が再び職につけるよう、支援して欲しいと述べている。海岸沿いは家屋だけでなく、たくさんの店も並んでいた。それらも全て津波により流されてしまったため、多くの人は収入源をも失った。NGOは機材や道具をそれらの被災者に提供することで、彼らの仕事復帰への、そして自立への支援をすることができる。マイクロ・ファイナンスも有効だろう。
瓦礫はいまだ地震・津波直後の状態で放置されている。OxfamやActionAidなどを含むNGOはCash-for-Workプログラムの下、現地住民を動機付け、自分たちの手で瓦礫の片付けや雨季に備えての準備などができるよう支援をする予定である。
ハットベイでのNGOの活動
Oxfam: 2月15日からCash-for-Workプロジェクトを開始する予定。津波により職を失った未亡人らにミシンや布を提供し、仕立屋を始められるよう支援する。開始から一ヶ月はOxfamが賃金を負担するが、その後は彼らのみで仕立屋を運営できるよう促す。また、Cash-for-Workメカニズムにより住民が瓦礫の片付けをし、その瓦礫を利用して雨季に備えた歩道や下水を建設するよう支援する。キャンプで生活する避難民が現金収入を得ることにより、自立へとつながる。Oxfamはこれまで、Harminder Bayで住民が新たな住居を建設するための道具なども提供した。
ActionAid: Cash-for-Workプロジェクト、支援物資の配給、精神面でのサポート
PRAYAS: トラウマ・カウンセリング、初等教育、支援物資の配給
VHAI: 子供へのノン・フォーマル教育、衛生キットの配給、医師による医療支援
Khalsa Aid (UK): トイレ30件の建設
Hindustan Covenant Church: 必要に応じてトイレの建設を請け負うと表明
ADRAの支援の可能性
- 仮設教室
キャンプ生活をする避難民が今後どこへ定着するのか、いまだ確定しておらず、また学校も数ヵ月後には夏休みに入る。そのため、現地行政は現時点での仮設学校の建設にはあまり前向きとはいえない。しかし、ADRAが使用を計画しているプレハブは、セメントとプラスチックを混合させた頑丈な建物で、且つ2−3日で建設できるため緊急の仮設教室として支援をして、行政の政策が明確になった時点で、プレハブをコミュニティー・センターなどとして利用してもらうことも一つの可能性である。あるNGOはHarminder Bayで5教室、GMSSで5教室を建設すると表明したようだが、いまだその詳細はわかっていない。ADRAがこの分野で支援をするのであれば、行政とのコーディネーションの下、Panju TikeryとOnge Tikery付近で5−6教室の建設が妥当と思われる。
> 仮設教室建設候補地:Panju TikeryとOnge Tikery付近
- 仮設保健所
仮設保健所の建設を計画しているNGOはいまだないため、この分野での支援は現地のニーズや、他の支援団体との調和としても合理的な支援になると考えられる。HVAIは現在テントで医療支援を提供している。彼らは同様の支援を他3箇所で予定しているが、どれもテントでの支援となる。Netaji Nagarのsub-centerは大きな被害を受けたが、Netaji Nagarキャンプの避難民の定住場所はいまだ未定である。仮設保健所の建設場所を定めるには、政府との密接なコーディネートが必要とされる。
> 仮設保健所建設候補地:Harminder Bay, Panju Tikery, R.K. Pur, Dugong Creek
- 井戸
Oxfamが井戸の清掃を予定しているが、ハットベイで井戸の建設を計画しているNGOはいない。消防署が水の配給を止める前に、避難民が各自で水を調達できる手段を提供することが重要である。ポートブレアに戻り、Joint CommissionerとNGOのミーティングにて井戸建設について打診したところ、行政も必要性に賛成し、早速始めてほしいとの要望を受けた。
> 井戸建設候補地:Harminder Bay, Panju Tikery, Padauk Bagicha
- 生計の再建
生計再建の支援はキャンプで生活する避難民のみならず政府も重要視している分野である。現在、避難民は様々な生活用品が無料で手に入るキャンプ生活に慣れ、仕事復帰への動機が低く、政府も困っているとのこと。マイクロ・ファイナンス、Cash-for-Work、小産業再建のための機具(ミシン、コピー機、タイプライターなど)の配給などは、収入源を失った避難民にとって必要性の非常に高い支援と言えるだろう。車両もすべて津波により破壊され、大型トラックや、政府がポートブレアから輸送した車以外は、ハットベイで車を目にすることはなかった。このことからも、車修理所などの車に関する産業も悪影響を受けることはわかる。キャンプでインタビューをした避難民によると、多くの人が移動手段を失い、自転車配給の支援も必要性が高いようだ。
政府が仮設住宅(Intermediate shelter)の建設をNGOと共同で行うため、ADRAも現地の避難民を雇い建設作業に協力することで、彼らに現金収入を与えることができるだろう。
生計再建候補地:政府の仮設住宅(Intermediate Shelter)建設計画に従う。
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