NGO能力強化研修プログラム

2016年2月29日~3月4日、「INEE教育ミニマム・スタンダード・トレーナー養成研修」を米国・ワシントンD.C.にて開催

イベントレポート

Session8: Psychosocial Support in Education in Emergencies (EiE)

「教育に関わることは『こころ』にも関わるということ」

心理社会的支援(Psychosocial Support:以下、PSS)のセッション8では、私たち支援者がどのように受益者に関わることができるかという点で活発な討論が行われた。このモジュールは、1日の最後という参加者の疲れの色が濃い時間帯に行われていたにも関わらず、多くの質疑応答と深いディスカッションが展開され、参加者の高い関心が窺えた。

私は今回の参加者の中では異色の医療従事者であり、精神保健心理社会的支援を活動と研究軸に置いている。そのため、PSSという、需要が非常に高い一方で、非常にセンシティブかつ注意を要する支援に対して、心理の専門職者でない支援者がどのように関わるのか、トレーナー養成研修としてどこまでPSSに関する資質を求めるのだろうかと一抹の不安があったのも否めなかった。

この不安はもちろん杞憂に終わり、ディスカッションでは、フィールドで直面した課題や難しさだけでなく、そのような場面で実践できる応用性の高い支援アプローチ方法の共有など、医療者としても新しい学びが多くあった。

教育に関わることは『こころ』にも関わるということ

PSSの理論的背景は、スフィア・ハンドブック(※1)の保健医療チャプターや、IASC(Inter-Agency Standing Committee)(※2)の緊急時支援におけるMHPSS(精神保健・心理社会的支援)ガイドライン(※2)に詳細が記載されている、傷つけない原則と介入ピラミッド(下図参照)を用いて説明された。

心理的デブリーフィング(※3)の非有用性を踏まえ、きれいな水、食料、安全な場所、そして大切な人と繋がっていることといった要素が、被災者の心理的ストレスを緩和し、ウェルビーイングを高めることが近年の研究でも明らかになり、推奨されている。

次にファシリテーターは、異常な事態に対する正常な反応について言及した。このやや長い異常な事態に対する正常な反応というのは落胆、意欲や集中力の減退、落涙、おねしょ、イライラ、怒りっぽい、身だしなみを整えられない等、緊急事態を経験した人に起こり得るもので、ストレスフルな状況をやり過ごすために人に備わっている、広範囲に亘る適応方法である。

教育に関わることは『こころ』にも関わるということ

実践力の向上を目指して、小学生児童を対象にした教室内グラウンドでのPSSの様子がビデオクリップにて参加者に共有された。教授的な方法と参加型の方法を、時に使い分け、時に同時に使用することによって、こどもの注意力とレジリエンスを高めることがポイントで、ビデオからはその様子が見てとれた。

INEEのファシリテーターとして求められる、PSSの理論への理解を高めることと、実践力を伸ばすことの両方を備えたモジュールであった。

教育に関わることは『こころ』にも関わるということ

「図1.災害・紛争時等における精神保健・心理社会的支援の介入ピラミッド。」、 災害・紛争など人道的緊急時における精神保健・心理社会的支援:
http://www.who.int/mental_health/emergencies/what_humanitarian_health_actors_should_know_japanese.pdf、2016/5/13引用

原田 奈穂子
支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク(JQAN)

※1)スフィア・ハンドブック
人道機関は、国際人道法や人権法、難民法の規定に反映されている、被災者の権利の中でも「尊厳のある生活への権利」「人道援助を受ける権利」「保護と安全への権利」の3つに基づいて、被災者すべてに支援というサービスを提供するとされており、これらの権利を実現するために、人道援助を行うNGOのグループと国際赤十字・赤新月運動によって1997年に開始されたのが「スフィア・プロジェクト」(または「スフィア」)である。冷戦終結後の1990年代、世界各地で内戦が頻発する中、国際機関やNGOが行なう人道支援は、確かな役割を果たす一方で、支援が軍事目的に転用されるなど、紛争の長期化・複雑化に与える悪影響が指摘された。この課題に取り組むため、スフィアでは人道憲章の枠組みに基づき、生命を守るための主要な分野における最低限満たされるべき基準「スフィア・スタンダード」を定めて、「スフィア・ハンドブック」にまとめた。
参考文献:
スフィア・プロジェクト 人道憲章と人道対応に関する最低基準:
http://www.sphereproject.org/resources/download-publications/?search=1&keywords=&language=Japanese&category=22&subcat-22=23&subcat-29=0&subcat-31=0&subcat-35=0

※2)IASC(Inter-Agency Standing Committee)
人道支援の連携・調整強化を求める国連総会決議46/182を受けて1992年に設立された「機関間常設委員会」。この決議では、複合的な災害・紛争等や自然災害に対する関係機関間の意思決定を円滑にするための主要な機構としてIASCを定めている。ISACは、国連や国連以外のの様々な人道支援組織のトップにより構成されている。
参考文献:
災害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会的支援に関するIASCガイドライン:
http://www.who.int/hac/network/interagency/news/iasc_110423.pdf

災害・紛争など人道的緊急時における精神保健・心理社会的支援:
http://www.who.int/mental_health/emergencies/what_humanitarian_health_actors_should_know_japanese.pdf

※3)心理的デブリーフィング
デブリーフィングdebriefingとは、元来は軍隊用語で、前線からの帰還兵にその任務や戦況について質問し報告させることを指していた。それが、災害や精神的にショックとなる出来事を経験した人々のために行われる危機介入手段として転用されたのが心理的デブリーフィング(psychological debriefing(PD))である。もともと米軍のパラメディックでもあり救急隊員でもあった心理学者ミッチェルがさらに構造化した非常事態ストレス・デブリーフィングcritical incident stress debriefing(CISD)として開発し、よく知られるところとなった。それは、災害などの2,3日(少なくとも1週間)後に行われるグループ技法であり、2~3時間をかけて、出来事の再構成、感情の発散(カタルシス)、トラウマ反応の心理教育などがなされるものである。(一般社団法人 日本心理臨床学会のWebサイト http://www.ajcp.info/heart311/notdebriefing.htmlより引用)

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イベント概要

ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、「TOMODACHI NGOリーダーシップ・プログラム」(※)の一環として、「INEE教育ミニマム・スタンダード・トレーナー養成研修」を、来年2月29日~3月4日の日程で米国・ワシントンD.C.にて開催します(共催:米国NGO団体Mercy Corps)。

これは、昨今の世界情勢や緊急人道支援の性質と傾向、また以前よりJPF加盟NGOから寄せられていたトレーニング開催への高い要望を鑑み、JPFが教育分野における国際的なミニマム・スタンダード(INEE)についての学習機会の提供を模索してきた結果によるものです。
本研修参加者は研修終了後、トレーナーとして年度内に日本にて約2日間の研修を実施していただくことになります。よって、緊急教育支援に従事した経験を持ち、かつ日本での普及活動に意欲的な方を対象に開催すべく、研修内容や参加者の応募資格、条件等については鋭意調整中です。詳細決定次第、随時ご案内いたしますが、ご関心のある方は直接下記窓口までお問い合わせください。

INEE教育ミニマム・スタンダードとは:
緊急教育支援の情報ネットワーク(Inter-Agency Network for Education in Emergency : INEE)が策定した緊急時の教育におけるミニマム・スタンダードです。INEEの運営には、UNHCE、UNICEF、UNESCO、USAID、World Vision Internationalなどが入っており、国際的に認知されている基準です。本スタンダードは、ハリケーン・台風・地震・洪水などの「自然災害」と紛争や内戦によって引き起こされた「複合的な緊急情勢」に緊急的に対応するために設計されており、現在170ヶ国で使用されています。

参考:

INEE
http://www.ineesite.org/en/

INEEミニマムスタンダード
http://toolkit.ineesite.org/toolkit/INEEcms/uploads/1012/INEE%20MS%20Japanese_2010.pdf

内閣府HP:緊急時の教育のための最低基準とは
http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article033.html

※「TOMODACHI NGOリーダーシップ・プログラム」について:
「TOMODACHI NGOリーダーシップ・プログラム」とは、米日カウンシル(US-Japan Council)主導のTOMODACHI イニシアチブ、ならびにJ.P.モルガンの支援を受け、JPFが米国のNGO団体マーシー・コー(Mercy Corps)とのパートナーシップのもとに実施している研修事業です。東日本大震災におけるNGOの支援活動から得られた貴重な経験や教訓を活かし、日本のNPO/NGOが国内外でより効果的な人道支援活動を行うための能力強化を目的としており、2013年4月~2016年3月までの3年間で、人道支援に関するさまざまな研修を計画、実施しています。

研修概要

期間
2016年2月29日(月)~3月4日(金)
※この日程には、出発・帰国日は含まれていませんのでご注意ください。
渡航先
米国・ワシントンD.C.
費用
無料
※米国往復航空運賃(上限あり)、ESTA(渡航認証)申請費用、研修期間の保険料、米国国内宿泊費、日当(注)はJPFが負担します。
注)日当はMercy Corpsの規定額に基づき、米国ドルで支給されます。
定員
日本人10~15名 (外国からの参加者複数名)
※厳正な審査の上、参加者を決定します。
言語
英語

本件に関するジャパン・プラットフォーム(JPF)についてのお問い合わせ先

特定非営利活動法人(認定NPO法人)ジャパン・プラットフォーム

NGO能力強化研修プログラム担当:鈴木、谷口
E-mail:training@japanplatform.org
〒102-0083 東京都千代田区麹町3-6-5 麹町GN安田ビル 4F
TEL:03-6261-4751(事業部直通) 代表:03-6261-4750 FAX:03-6261-4753