事業目的:
2004年12月に発生したスマトラ島沖地震による津波被害で親族、住居や家財、収入源を失い、精神的ダメージを受けたハンバントタ県の住民に対して、1)職業訓練、2)児童課外活動、3)グループ・カウンセリングの3つの活動を通して生活改善支援事業を行う。被災者が生活を再建する上で役立つ技術を学び、自ら行動し、物を作ることによる達成感を通し、復興するために必要な前向きな力を取り戻す。また、グループ・カウンセリングを通して、被災者同士で互いの経験を共有し、仲間意識を強め、今後の困難に立ち向かう際に、互いを支えあえるグループ作りを促す。
事業概要
1.現地事情
現在ハンバントタ県では、道路上の瓦礫の撤去は進み、交通などアクセスは大分改善された。それ以外には、津波の被害で住居を失った被災者のために、支援団体によるシェルター建設事業が進んでいる。既に、3,545軒分の仮設住宅と3,380軒分の恒久的住宅の建設が支援団体に振り分けられており、一部の仮設住宅は完成している。JENは、避難先からこれらの新しい住居に移る被災者に対してジャパン・プラットフォームの資金により「スマトラ島沖地震支援:ハンバントッタ県における緊急生活用品配布事業」を行っている。
今回の津波の発生により、漁業に従事していた多くの被災者は、家族、家財だけでなく、生活に必要なボートや魚網を失い、収入源が断たれてしまった。また、被災者は、職を失い、することがなくなってしまったため、喪失感、無力感を覚え、新しい生活を立て直す前向きな気持ちを取り戻すのが難しい状況にある。
2.事業内容・実施方法
JEN独自の被災現場の聞き取り調査や、現在カウンターパートである現地NGOのセワランカとニーズを確認した結果、現在、現地での要望と関心が高い以下3つの活動を通して、津波による被害を受けた人々の生活改善支援事業を行う。ジャパン・プラットフォームの資金で実施した「スマトラ島沖地震支援:ハンバントッタ県における緊急生活用品配布事業」の裨益世帯は、特に厳しい生活を強いられている人々であるため、地元コミュニティーと相談の上、本事業でも対象者に含む予定である。裨益者は、生活用品配布事業の際にコミュニティー内に設立した委員会を通して、コミュニティーの人々と共に決定する。場所は、ハンバントタ県タンゴール郡、アンバラントタ郡、ハンバントタ郡内にある計10の被災コミュニティーである。JENはこの10のコミュニティーのニーズと希望に合わせ3つの活動(1.職業訓練、2.児童課外活動、3.グループ・カウンセリング)を通して、被災者が新しい生活を立て直すための、生活改善支援事業を行う。
1.職業訓練(A. ココナッツ・ロープ作り、B. 手編み魚網作り、C. 小規模野菜菜園)
大人を対象にA〜C3種類の職業訓練を、コミュニティーごとのニーズに合わせ、10のコミュニティーで行う(活動詳細は下を参照)。10のコミュニティーのうち、4つのコミュニティーがココナッツ・ロープ作り、別の4つのコミュニティーが手編み魚網作り、2つのコミュニティーが小規模野菜栽培を行う。ココナッツ・ロープ作りは、4つのコミュニティーで活動時期を2回に分けて行われる。最初の2つのコミュニティーは4/18〜5/15までの4週間、次の2つのコミュニティーは5/16〜6/13までの4週間で実施する。各コミュニティーには20人のグループが3つ作られ、一日3回に分けて行う。同じく手編み魚網作りも4つのコミュニティーで、活動時期を2回に分けて(4/18〜5/15、5/16〜6/13)行う。各コミュニティーでは20人のグループが2つ作られ、一日2回に分けて活動を行う。小規模野菜栽培は、2つのコミュニティーで4/18〜6/13まで8週間かけて行う。各コミュニティーで20人のグループが1つ作られ、一日2回に分けて活動を行う。
A. ココナッツ・ロープ作り 4週間(20クラス)X3グループX4コミュニティー
スリランカでは、ヤシの繊維を使ってロープを作る習慣がある。簡単な機械(4人で1台を共用)と訓練で身につけることのできる技術であり、地味な作業でありながら達成感が高いと考えられる(詳しくは添付の写真を参照)。このヤシのロープは、ハンバントタでは家の屋根や囲いを縛るのにも使用されているため、被災者自身の家を再建する際にも役にたつ。更に、維持費があまりかからないため、事業終了後もコミュニティーによって継続することが可能である。機械や道具の維持と管理を行うための委員会を設立し、共同資産として使用することを予定している。
B. 手編み魚網作り 4週間(20クラス)X2グループX2コミュニティー
ハンバントタ県で直接被害を受けた多くの被災者が漁業に従事していた。しかし、津波の被害により、多くの漁夫が船や魚網を失い、収入をもたらす仕事を再開出来ない状態である。タンゴール郡の住民は一刻も早い漁業への復帰を望んでおり、既に被災者自らで魚網の修復を試みたが、魚網を手編みする技術がなかったため、できた魚網はすぐに解けてしまった。手編みの魚網は機械の魚網に比べて小さく、海岸近辺の小さな魚を捕るのに限られるが、近場で漁業を復興するきっかけとすることが可能である。一部の漁夫は手編みの魚網作りを学び、小規模でも漁夫として漁業を再開することを希望している。また、魚網の修理等にはもともと女性も関わっていたため、女性も受益対象者に含めることができる。実際に女性からの参加希望も出ている。
C. 小規模野菜栽培 8週間(40クラス)X2グループX2コミュニティー
ハンバントタ県では、政府や数多くの支援機関、市民団体により、被災者に対して食料が提供されているが、新鮮な野菜を要望する声が高まっている。被災者の食生活と健康のためにも、環境を考慮した肥料の作り方から、安価で持続可能な小規模野菜栽培の技術を習得することは被災者の生活改善に有効である。この職業訓練活動を実施するにあたって、野菜などが栽培できる土地の確保は必要条件である。できればコミュニティーの共同地が望ましい。タンゴール郡では、共同地での小規模野菜栽培活動を行うことを検討している。共同の土地を利用することで、被災者が恒久的住宅に移り住む際に、共同地で育てた野菜をそれぞれの住居の庭に移すことができ、将来も継続的に自分たちの庭で野菜の栽培を続けることができる。
各活動には専門のインストラクター(各1名)が技術指導を行う。コミュニティー内の委員会を通し、被災者の中でも特に厳しい状況にあり、新しい技術の習得を通し、生活再建を目指す人を裨益者として特定する。被災者は職業訓練を通して、新しい技術を学び、生活に必要な物を自分で作り出すことで、達成感を得ることができるだけでなく、自信と前向きな力の回復にもつながる。新しく学んだ技術は、裨益者が生活を立て直す上でも役に立つものであり、生活環境の改善さらには、収入につなげることも可能と考えられる。またA〜Cの職業訓練活動には若者から高齢者まで男女共に参加することができる。活動を行うスペースについては、学校か寺を考えている。JENの活動地域であるタンゴール郡内には、今回の津波の影響により2校が廃校になり(海岸から100m以内にあるため)、ハンバントタの教育局からは、そのスペースの使用許可を得ている。
2. 児童課外活動 8週間(40クラス)X1グループX10コミュニティー
職業訓練を行う10の各コミュニティーにつき50人のグループが1つ作られ、1日1回、4/1〜5/31まで8週間、被災した児童を対象にスポーツなどの課外活動を行う。子どもたちはスポーツに没頭し、体を動かすことで、辛い記憶や津波で受けた心の傷を癒す一助とすることができる。また、仲間と共にスポーツに取り組むことで、身近に死を経験し心を閉ざす子どもが、ほかの子どもたちとの連帯を感じ、前向きな気持ちを取り戻すきっかけをえることができる。さらに、子どもたちは体を動かすだけではなく、スポーツ活動を通し、与えられたスポーツ用品の管理と維持も行う。このため、各コミュニティーに子どもたちの委員会を設立し、責任者とそれぞれの担当を決める。スポーツ活動や委員会を指導するために、各コミュニティーにインストラクターが1名付き、子どもたちの話し合いの場などを決める。各コミュニティーに与えられたスポーツ用品は、寺又は学校にて保管される。
3. グループカウンセリング
1.2の各活動に、ソーシャル・ワーカー/カウンセラーを1名ずつ派遣し、活動に参加する裨益者を対象にグループ・カウンセリングを行う。参加者はグループ・カウンセリングを通して、津波の被害や失ったものに対する悲しみを他の被災者と語り合い、気持ちを共有すると共に、活動を通して生まれた連帯を通して、仲間とのサポートグループ作りを促し、事業後も心の支えとなることが期待できる。
グループ・カウンセリング活動を行うにあたり、現地スリランカの心理学専門家と契約を結び、JENの心理学アドバイザーとしてカウンセリングに関する総合的なアドバイスを受ける。スリランカ現地のAssociation of Professional Social Workerを通して、適切な知識と専門性を持つ心理学専門家をアドバイザーとして雇用する予定である。心理学専門家と共に、現地での経験と専門的見地のもとに、スリランカの文化、地域性に十分配慮し、現地の人々に適した効果的な形態でのグループ・カウンセリングを計画、実施する。また、グループ・カウンセリングを頻繁にモニタリングし、事業後に適切且つ必要と判断された場合、グループ・カウンセリングの効果について現地の事情、裨益者の感情に十分配慮した上で評価することも検討する。
本活動はパイロット・フェーズでもあり、1.職業訓練、2.児童課外活動、3.グループ・カウンセリング3つの活動を通し、反応に応じ、特に効果的であった活動を更に拡大していく予定である。その際に、本事業で得た人的資源、ネットワーク、経験を最大限活用していく。
【最終裨益者見込数:980人(10.6人/日 ×92日(事業実施期間))
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