女性たちが受けたトラウマ
避難民たちの中には、ミャンマーから逃げる途中で家族や隣人が殺傷されるのを目撃した人が少なくありません。女性には性暴力に遭ったり、現在も夫からの暴力に苦しんだりしている人もいます。このような過去の迫害・差別によるトラウマを抱える人がたくさんいるのです。
また、新型コロナウイルス感染拡大以降は、キャンプ内への立ち入りが厳しく制限されました。これにより、支援活動も医療や水衛生、食糧配付などの生命に関わる活動のみが許可され、十分な支援を届けることが難しい状態が続きました。
それは、避難民にとっても大きなストレスとなり、女性や子供などより弱い立場の人への暴力や児童婚、人身取引が増加傾向にあるとの報告もあります。
先の見えない避難生活の中でも
毎日安全に過ごせる
生活環境を築き、
女性や子どもたちを守る
WVJシニア・プログラム・コーディネーターの西島さん ©JPF
WVJは2019年より、女性や女子が尊厳や健康を回復し、安全に過ごすことができる生活環境を築くため、生活必需品(生理用品、懐中電灯、下着等)の配布や街灯の設置、人々の行動変容を促す活動を行っています。女性と女子のためのセンターでは、ケースワーカーが日々の相談に応じ、料理や裁縫教室などを開催し、女性と女子たちの憩いの場となっています。男性、青年男子、地域のリーダーを対象に啓発を行い、地域全体でジェンダーに基づく差別や暴力から女性や女子、男子を守ることができるように取り組んでいます。
WVJシニア・プログラム・コーディネーターの西島さんは、「先の見えない不安や苛立ちは、時に暴力として弱い立場の女性や女の子たちに向けられてしまうことがあります。児童婚や人身取引は大きな課題となっています。さまざまな制約と苦しみの中にあることを思うとき、心が痛くなります。しかし、これまでの活動で女性、女の子たちは笑顔を取り戻しつつあると感じます。また、研修を受けた地域リーダーの中には、児童婚を防いだ事例も出てきました。少しずつですが変化は見られます。人々に寄り添い、苦しみをともに担い、少しでも生きる力となる支援をしていきたいと感じています」と話してくれました。
女性のための
フレンドリースペース
女性のためのフレンドリースペースにてワークセラピーでマスクづくりの様子 ©難民を助ける会(AAR Japan)
AARは、暴力を受け、心にトラウマを抱えた女性たちなどを対象に、カウンセラーやケースワーカーに相談できる場所として、フレンドリースペース運営を行っています。早婚や人身売買などの啓発講座、医療機関への照会、ワークセラピーとして裁縫などのほか、簡単な文字の学習も行うようになり、それまではほとんどの女性が読み書きができなかったのですが、いまでは自分の名前を書けるようにまでなりました。
女性たちは、「啓発講座で新しいことをたくさん学んだ」、「アルファベットで自分の名前が書けるようになった」と嬉しそうな表情を見せることもあるそうです。ここで働くスタッフによると、徐々に自分の意見を言えるようになるなど、自分を取り戻す様子が見られているとのことでした。
NGOスタッフインタビュー②
(8分48秒)
AAR コックスバザール事務所
宮地 佳那子さん
2019年からミャンマー避難民支援を実施するAAR。現在(2022年10月時点)は女性のためのフレンドリースペースの運営を行っています。
教育の大切さをご自身のご経験も交えてお話くださいました。また、支援に当たっては何よりも避難民の方々へ丁寧に説明し、理解してもらうことが大事だともおっしゃっています。
技術を身に付け、
立ち上がろうとする女性たち
SCJが建設を支援している避難民の住居 ©Save the Children
実はキャンプ内の建物の建築はすべて竹を使用するように定められています。コンクリートや木材は特別な場所でないと使用できません。これは、あくまでもキャンプでの生活は一過性のものでミャンマー避難民はいずれ帰還する、というバングラデシュ政府の見解によるものです。そこで、SCJでは、女性たちを対象に、竹を使って丈夫な家を建てる技術を教えました。今では、屋根以外の土台、柱、壁すべて女性たちで作れるまでになりました。活動に参加した女性たちはこの技術を習得できたことを非常に喜んでおり、今後、コミュニティに頑丈で住みやすい家を建設していきたいと語っています。
笑顔で収穫した作物を
みせてくれた
収穫を見せてくれた笑顔の人 ©IVY
IVYの現地担当者 林 知美さん(写真右)©IVY
IVYは家庭菜園を避難民の女性たちに教えています。キャンプ内の慢性的な食料不足解消のため、家の周りで、自分たちで作物を育てて収穫するのです。キャンプ内を歩くと、ざるいっぱいに収穫した作物(冬瓜、キュウリ、オクラ、豆類等)を満面の笑顔で見せてくれました。
野菜を育てることで少しだけでも明日への希望を持つことができる・・・家庭菜園には、プラントセラピーの効果もあるのだと、現地の支援スタッフは話していました。そういえば、このキャンプの女性たちは明るく良くおしゃべりをする人たちが多いように感じられました。
キャンプ14内唯一の出産施設
PWJは2018年からキャンプ14で唯一の出産に対応できる診療所を運営しています。リスクが高い自宅での出産が多く、診療所での出産になじみのない地域のため、昔ながらの出産時にいきむ際に捕まるロープを分娩台に準備するなど、できる限り避難民の女性たちの要望に合わせた方法に対応し、診療所での安全な出産を推進できるようにしています。
遠方に住む人や来院が困難な人に対しては、避難民ボランティアが啓発活動や家庭訪問による健康相談により知識や習慣について住民に教えており、必要に応じて受診につなげられるような支援を行っています。特に、移動が難しい妊産婦や高齢者、障がい者の支援に力を入れています。
NGOスタッフインタビュー③
(11分32秒)
PWJ コックスバザール事務所 土井 紗也香さん
2017年からミャンマー避難民支援を開始したPWJ。主に保健医療や母子保健支援を行っています。
病院で看護師として勤務した経験がある土井さん。避難民の方々へは治療だけでなく予防や正しい生活習慣を身に付けてもらうための活動にも力を入れているとお話されました。
より弱い立場の人々への
支援が課題
今後、子どもや女性、高齢者、障がい者など脆弱さが増している層へどのように効果的に支援を届けていけるのか依然として課題のままです。
一方で、技術を身に付け、キャンプ内の生活環境の改善に取り組もうとする女性たちのように、受けるだけの支援ではなく、避難民の人々が少しでも自立できるようにサポートしていくことが必要とされています。
年々、ミャンマー避難民支援プログラムの資金が縮小してきています。
ミャンマー避難民、子どもたち、女性たち、ホストコミュニティのため、
皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。
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- フリガナ
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認定NPO法人の寄付金控除 領収書の発行
関連セミナー
JPFは、2022年11月16日(水)、オンライン・セミナー「もっと知ろう!ミャンマー避難民~バングラデシュに逃れたミャンマー避難民の避難民キャンプでの暮らしの現状と課題~」を開催し、100名以上の方にご参加いただきました。
本セミナーでは「避難民キャンプでの暮らしの現状と課題」に焦点を当て、先行きの見えない中で避難民がどのような生活を送っているのか、5年間の活動を通じて見えてきた課題はどのようなことかを、現地で活動を続ける加盟NGOスタッフおよびJPFスタッフからお話させていただきました。また、参加者の皆さまからのご質問にもお答えし、困難な状況にある避難民の現状について皆さまとともに考える内容となっています。ぜひ、ご視聴ください!
皆さまからお寄せいただいた
ご質問への回答
上記セミナーに関連して、JPF支援者の皆さまやセミナーにお申込みいただいた皆さまから、多数のご質問をお寄せいただきました。そうしたご質問への回答をこちらのページに掲載していますので、セミナーとあわせてご覧いただければ幸いです。