「能登豪雨1ヵ月:現地からの報告」アーカイブ配信中
この記事は、ジャパン・プラットフォームが、2023年2月21日(火)に開催したオンライン・シンポジウムの一部をダイジェスト版として編集したものです。フルバージョンはアーカイブ動画をご覧ください。
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津山:本日はモデレーターを仰せつかりました、津山恵子と申します。現在ニューヨークに在住しており、現地には行かれないんですけれども YouTube やクラブハウスなどでウクライナ危機については度々取り上げて情報発信しています。
本日は、以下の4つのトーキングポイントついて、おひとりずつお話を伺っていきたいと思います。
・ポイント① この1年のウクライナ支援の動きをどう感じるか?
・ポイント② 報道に慣れ、世間の関心が薄れてきた。この現状をどう考えるか?
・ポイント③ 今後のウクライナ支援はどうなる?
・ポイント④ 世界の人道支援はどうなっていく?
津山:今回のウクライナ危機について、まず、今までの人道支援とくらべて支援の内容などどういったことが異なっているのかを突きとめていきたいと思います。まず専門家 の代表として参加されているビコーズインスチチュートの清水さん、お話を伺えますでしょうか。
清水:やはり(ジャパン・プラットフォーム(以下、JPF)やNGOにとってヨーロッパというほとんど経験のない事業地、しかも戦争の最中の)欧州で起きたという点で、NGOの皆さんは、ポストコンフリクト(紛争後の復興支援)での経験はあるわけですが、これだけ大国が絡むような戦争中の支援の場合、支援を実施するNGOやJPFにもかなりの流動性が求められたと思います。
津山:現地で支援活動にあたるNGOの皆さんはいかがでしょうか。
トムソン:オペレーション・ブレッシング・ジャパン(以下、OBJ)の場合、東日本大震災を機に設立された団体なのですが、実はウクライナでは1992年から連携NGO団体があり、クリミア戦争の後でさまざまな支援を行いました。その延長線で、今回OBJもウクライナ支援に参加しました。
津山:先ほど、燃料を一世帯に2トンというお話がありました。※ これは相当な量になりますが、それも1992年からの連携で実現が叶ったということでしょうか。
※OBJはウクライナ東部ドネツク州で、戦争により最も弱い立場にある78世帯に、他の暖房手段がない状況下で冬を乗り切るためのストーブと2トンの燃料を提供。詳しくは、アーカイブ動画「1年間の活動報告」をご覧ください。
トムソン:以前に似たような越冬プロジェクトを実施したことがあり、今回2トンという数字を出しました。
金澤:IVY(アイビー)では、イラクでも支援活動を行っているのですが、そこでご縁のあったスロバキアのNGO、STEP-INと提携してウクライナで活動をしています。遠隔で協力してやっていくというのがとても難しかったです。可能な際には短い時間でもオンラインでミーティングをするなど、コミュニケ―ションを取りながら進めてきました。
津山:私も、キーウに住んでいるジャーナリストや一般の住民の方々と YouTubeやClubhouseなどのツールを使ってコミュニケーションを取っていますが、NGOの皆さんも現地に入ることができずに、現地の NGO と協力して支援を行っているわけで、その場合の困難というのは、やはり通信手段でしょうか。
トムソン:そうですね。停電が起きるなど電気の供給が不安定ですので、たとえば(状況を共有するための)現地からの写真をインターネットでやり取り出来ないなど、通信手段などのインフラがどうなるのか心配でしたが、何とか連絡を取り合いました。
金澤:私も同じく、なかなかコミュニケーションが取れないのが大変でした。現在はジェネレーターを購入して使っていますが、当初はやはりWi-Fiなど停電による影響がすごく大きくて、コミュニケーションを取るのは本当に困難でした。
津山:続いてジャパン・プラットフォームの井出さんはいかがでしょうか。
井出:ジャパン・プラットフォームは2000年の設立以来、60カ国以上の国と地域で1900以上のプログラムを実施してきましたが、今回のように紛争地域での人道支援というのはまったく初めての経験でした。加えて、今年はだいぶ良くなりましたが、コロナ渦の影響で、周辺国にも中々入れないという状況で、試行錯誤しながら事業の遠隔運営を実施してきました。また、ウクライナ国内と周辺国では、当然ながら支援内容は変わってきますので、臨機応変な対応が求められるなど、もう振り返れば本当に無我夢中な1年だったと思います。
津山:清水さん、日本政府の動きは、どうだったのでしょうか。
清水:政府の動きは大変早く、今回、素早くかなりの金額の支援が用意されました。人道支援というのは甚大なニーズがあって量が大切になりますので、この点は大変評価できるのではないかと思います。ただ、量だけでなく質、あるいは継続していくことも大切ですので、その辺りはJPFが 今からの課題として取り組むべきところかなと思います。
ウクライナ人道危機 特設サイト「これまでの活動報告」 はこちら |
津山:さて、ウクライナ危機は、世界的に報道されていますが、1年を迎え、世間の人々の関心が薄れてきているのではないかという危機感があります。この現状について、メディアの代表として参加されているNHK専門解説委員の二村さん、いかがでしょうか。
二村:残念ながら私がメディアの立場からいうのもおかしいんですが、今のウクライナ情勢については、戦況や兵器の供与、あるいは政治的な駆け引きなどに大きな焦点が当てられていると感じます。やはり現地の人々が何を求めているのか、どんな状況に置かれているのか、という「人」に関する報道が不足しているというのは、私も個人的に思います。
ただ、やはりメディアがこれだけウクライナについて積極的に報道しているのは、やはり日本の人たちの関心の高さが背景にあると思います。
津山:再び清水さん、この中で企業の動きというのはこの1年間で変化をしてきているのでしょうか。
清水:私が知っている限り、今回のウクライナ支援ではJPFの支援プログラムでも非常に高い民間資金の割合が示されています。たとえば本年度、当初予算で一番民間資金が集まった割合が高いのが、ミャンマー避難民の人道支援の8%程度だったのが、ウクライナでは初期からかなりの資金が集まって民間資金12%以上となっています。これは企業からも個人からも頂いたものだと思いますが、迅速な支援の気持ちというのが企業の皆さんからも示されたと思っています。
津山:私がつながっている企業の人々の情報でも、「非常に多くの日本からの親切な支援をありがとうございます」というメッセージがSNSなどでも多く寄せられていて、嬉しい情報だと思います。
井出さん、その関心度というのが、支援者の方や民間の中でも変化してきていると感じておられますでしょうか。
井出:おっしゃる通り、先日もトルコ・シリアで大きな地震がありましたが、そういった大きな惨事が起こりますと、当然ながらウクライナのことが薄れて行くのはある意味仕方のないことではあります。しかし、JPFがどういう支援をしているのか、日本としてどういう支援ができるのかということを、どんどん発信していくことも、我々JPFの使命だとも思っています。
津山:そうしたニーズがあるからこそ今日は200人を超える参加者に集まっていただけたと思います。
トムソン:私たちもNGO としての情報発信はいつも大切にしています。やはり支援してくださった方にきちんと報告しないといけないですし、ただ数字や文字だけの報告やでなく、動画などを使って現地の人々の顔が見える、現地の声を伝えることに力を入れています。
金澤:私たちIVYもFacebookなどを通して現地の状況や支援活動の内容を頻繁にアップして伝えています。
津山:ジャパン・プラットフォームでは、今年(2023年度)、ある程度の大枠の支援計画があるのでしょうか。
井出:去年の4月、周辺国のモルドバ、ルーマニア、そしてポーランドへ現地視察にいきました。その時は食料支援、医療品の配布、シェルター(避難生活を送るテント)の配布といった日常生活の支援が非常に多かったのですが、最近では、教育、就労、また、社会統合といって長期化に伴ってウクライナの方たちが避難先の地域に住む、その地域で生きていくための支援などに移行しています。
津山:私も現地にいる方々から、戦争はいつ終わるのかわからないけれども日本には大変期待しているという声を聞いています。それは日本の技術力で、たとえば橋をかけるとか、住宅を早く建てるとか、そういったノウハウが日本にはありますので、ウクライナの復興支援ために、日本が威力を発揮してほしいという声を過去一年聞いてきました。
トムソン:日本の技術にはすごく期待していると思います。日本は災害復興の経験もあるし、私たち世代は知らない戦争の時代からものすごいスピードで復興しているので、そこにノウハウやヒントもあるのではないかと思います。私たちもその期待に応えて出来る限り続けて支援していきたいと思っています。
津山:金澤さん、IVYでは学習支援などのソフトサポートを行っていますが、メンタルの支援というのも今回の特徴のひとつですね。
金澤:私はスロバキアに滞在しているのですが、スロバキアでもウクライナ避難民の方々をたくさん受け入れており、メンタルサポートは重要視されています。ウクライナ国内はさらにリスクが高く、戦争の長期化に伴い、心理的な影響がより懸念されています。医療機関だけでなく、多くのNGOでメンタルサポートなどを引き続き行っていく必要がありますし、今後もニーズが高まると思っています。
津山:清水さん、他の視点から伺いたいんですけれども、こういった複合的な支援が必要になってきたということが見えてきて、NGO間あるいは企業や政府の中でそういったノウハウを蓄積する動きが出てきているのでしょうか。
清水:JPF の20年の歴史を振り返ってみると、日本の NGO にもそれなりの一定の知見が蓄積されていて、今回それが発揮されたという評価はできると思います。これだけの規模の被害ですので、人道危機発生の初期段階から人道支援とともに開発の視点を入れていく必要性が説かれていて、今回はまさにそれが重要になると思ってます。そのあたりでも 日本の NGO の実力を発揮する場面だと思っています。
ウクライナ人道危機 特設サイト「最新の支援ニーズ」 はこちら |
津山:今回のウクライナでの危機というのは世界の人道支援にとって何か大きなターニングポイントになるのでしょうか。
清水:これは個人的な意見として断った上で申し上げますが、今回、ウクライナで起きている非道なことと、人道支援の原則がごっちゃになってしまって、きちんと切り分けられていないようにも思います。ターニングポイントとおっしゃいましたけれども、私は改めてここで、人道支援とは何かということに遡って考え、なぜ人道支援が中立・独立でなければいけないのか、というところに立ち戻って考えるべきで、そういう機会になるのかなというふうにも考えています。
津山:世界の支援というのはどうなっていくのだろうかという点については、今回参加されている方たちも非常にご関心があるのではないかと思います。NGOの立場から、、やはり私たちだからできるんだ、そして将来もずっと続けていこう、というような確信に繋がった点について伺えますでしょうか。
金澤:やはりNGOはいろいろなニーズに応えることができると思うので、一番脆弱な立場の人たちを見逃さないような支援が必要だと考えますし、そうしていくべきだと思っています。
津山:もっとも弱い人たちを助けていくことが重要ということですが、支援の現場で届き方に不均衡が生じてしまうということも問題になってるんでしょうか。
トムソン:OBJは苦しみ・苦難の連鎖を断ち切るための支援をするという目標がありますが、まず平等な支援を考えてしまうと、今すぐ助けないといけない人を助けられません。もちろん差別もなく誰でも平等にというのは重要ですが、まず目の前にいる人たちを助けていく、そしてその先も探していきます。
一番弱い立場にいる人たちはよく見落とされるんですね。そういう人たちは声をあげることができません。声をあげられる人は「助けて」と言えますが、声を上げられない人は「助けて」も言えない。逆に探さないといけない状況ですね。だからそれはすごく大切にしてます。
津山:ウクライナの危機でいろいろな困難に直面しているという話を伺ってきましたが、それだけのチャレンジをウクライナだけではなく、人道支援という活動現場の中で、今までも、そして今後も抱えていくということがよく分かりました。
井出さん、かなり試行錯誤されている部分があるのでしょうか。
井出:先ほどの世間の関心が薄れてきたというところにも関わってくるのですが、JPFでは世界中で支援プログラムを実施しており、ウクライナのその他にも、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、ロヒンギャ、ベネズエラなど、世界には支援を必要としていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。JPFとしては、偏ることなく多くの方に支援を届けていきたいと思っております。
津山:ウクライナ危機だけでなく、世界中で難民の問題、紛争の問題、災害の問題は増え続けるばかりで、本当に皆様のご苦労は多いと思います。井出さん、物理的・人的資源はどのように平等に配分していくのか、工夫されているというところはありますか。
井出:なるべく現地の協力NGOを通じて、迅速に、かつより少ない経費で支援が届くように工夫をしています。また支援の方法として現金を配布して本当に必要なもの購入していただくなど支援の仕方を模索しながら、どのような支援方法が一番避難民の皆さんにとってハッピーなのかを考えながら実施しています。
津山:続いて二村さん、世界の難民問題、紛争地域の問題について長く報道されてきた立場から、世界の人道支援や報道は今後どういうふうになっていくとお考えでしょうか。
二村:自由民主主義体制と権威主義体制の対立、世界の分断が深まっていることは皆さんもご存知の通りなんですが、いわゆる国連の機能が完全に麻痺してしまっているだけに、紛争の解決というのはますます難しくなっていますし、市民の犠牲あるいは支援を必要としている人たちがこれから増えていくことは確実ですね。
また、気候変動に伴う異常気象による自然災害が頻発していますし、トルコの大地震のような災害もこれからも起こるわけでして、このような状況の中で、特に国連などは支援をする優先順位を決めなくてはならない。その時に支援が行き届かない人たちをどうするのか、というのは国際社会全体の問題だと思います。もちろん、一国では限界があるだけに、NGOであれば、各国のNGOとの連携を深める、あるいは企業との連携というのも必要になってくると思います。また、これからの時代というのはグローバルサウスが非常に注目されているわけで、そういった国々を味方につけて支援についても一緒にやっていくというのが重要になっていくのかなと思います。
津山:最後に清水さん、国際社会の中から見てNGOなどに対するあるいは私たちのような普通の市民に対するこういった危機に対する支援がどういうふうに期待されているのか少しお話し伺いますでしょうか。
清水:日本のNGOは、実はまだまだ欧米のNGOの規模には敵わないんですね。それは社会の違いでもあるわけです 。欧米のNGOを支えているのはそのバックにある社会で、これは日本社会を変えていくという方向に行かなければいけないと思ってます。NGOは、人道支援が「これだけ何かをやりましたね」という綺麗事で終わらずに、人権の問題、紛争予防、あるいは持続可能な社会ということに対してのアクションに結びつけていくための発信が求められていると思っています。
先ほど二村さんもメディアの話をなさいましたけれども、今回たとえば、国外に避難した人たちの特徴というのは男性がいない、子供を連れた母親、父親と引き離された子供たち、あるいは高齢の方たち。国内に残った方々も夜眠ったら朝ひょっとしたら爆撃で目覚めないんじゃないかという苦境に、我々市民の思いが寄り添っていたはずなんですね。私はJPFの事業審査委員をやってますけども、それでも現場の状況というのはまだまだよく知らないような状況ですから、一般の方々にはかなり届いてない部分があると思っています。そういった現場からの発信がNGO にも求められているんですが、JPFというユニークな組織だからこそできることもあると思うので、ぜひ今後も何かしら考えていただきたいと思います。
最後に、ウクライナ国内に日本人が入れないということについて、私の個人的な意見ですけども、人道支援というのはこんなところまで誰かが来てくれたのかという受けての思いも大切だと思うんですね。そこに自分はいないんだけれども、その代わりに誰かが行ってくれる・・・これは日本人である必要はないですが、日本のNGOの関係者がいるという、さりげない日本の存在感の伝わり方というのが非常に大切だと思っています。
津山:以上でパネルディスカッションをおしまいにしたいと思います。登壇者の皆さん、ありがとうございます。
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