「能登豪雨1ヵ月:現地からの報告」アーカイブ配信中
日時 | 2016年7月9日(土) 14:00~16:30 |
場所 | 日比谷図書文化館 コンベンションホール |
主催 | ジャパン・プラットフォーム(JPF)、加盟NGO(JPF南スーダンWG) |
後援 | 外務省 |
2016年7月9日(土)に開催した「南スーダンの展望」シンポジウムはおかげさまで盛況のうち終了いたしました。当日は約80名の方に参加いただき、熱心に皆さん耳を傾けていらっしゃいました。ご参加頂いた皆さま、関係者の皆さまに心より御礼申し上げます。
本シンポジウムでは、角免昌俊 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)海外事業部次長・アフリカ事業統括による司会のもと、橋本笙子ADRA Japan 理事・事業部長/JPF理事による開会挨拶が行われました。橋本氏は、現在も難民が世界で増え続けていることに触れ、南スーダンがJPFとして2005年以来関わってきた活動を振り返りつつ、南スーダンで起きていることは決して遠い国で起きていることではなく、難民は我々と同じように生活があり家族があった人たちだと述べ、身近な問題あることを呼びかけました。
角免昌俊 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)
橋本 笙子 (特活)ADRA Japan 理事・事業部長/JPF理事・常任委員
中村夕貴 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)支援事業部緊急人道支援課シニア・プログラム・オフィサーのファシリテートのもと、現場からの報告が映像を交えて行われました。
雨宮知子 AAR Japan[難民を助ける会]支援事業部主任は、紛争に巻き込まれた子供たちに関して現地からの映像を交えて報告を行いました。上映されたカクマ難民キャンプでの映像内では若者への取材が行われており、「父親が殺され家を燃やされた。難民キャンプへ移る前の6年間を別の村で過ごしたが、食べるものも教育もなくみじめだった」「全員で避難する間に、男性たちが目の前で殺されたのを忘れられない」等の子供たちからの声が紹介されました。雨宮主任は、映像で取り上げた子供たちが特別なのではなく、元気そうにしている子供たち一人一人が同様の経験をしていることを報告し、彼らが暴力や戦闘の方向へ進まずに、国づくりを担うようになってほしいと言及しました。
雨宮知子 AAR Japan[難民を助ける会]
千田愛子 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)支援事業部緊急人道支援課プログラム・オフィサーは、ウガンダで難民として教育を受けた教育専門家のモモ氏へのインタビュー映像を元に、南スーダンにおける女性の就学率・識字率の低さについて訴えました。現在は南スーダンに戻りWVJの現地スタッフとして教育に携わるモモ氏は、特に女子教育への支援の重要性、そして現状非常に少ない女性教師の育成の必要性を指摘し、国内にはまだ憎しみがあふれているが、学校が平和を広める場となるようにしたいとインタビューに答えていました。南スーダンにおける就学率は35%と世界的にも低く、女性が教育を受けることへの理解も低い現状がある、と千田プログラム・オフィサーは強調しました。
千田愛子 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)
山田彩乃 日本紛争予防センター(JCCP)プログラム・オフィサーは、JCCPの支援によって職業訓練を受けレストランで働く青年へのインタビューを元に、国内に残っている若者の失業率が悪化していることを指摘しました。インタビュー中では、経済状況の悪化により、働いても給料が支払われないか、あるいは非常に少なく、その給料の多くも交通費などの経費で消えてしまうという現状が紹介され、経済危機の中で多くの若者が職を失っていることを述べていました。
山田彩乃 日本紛争予防センター(JCCP)
最後に、難民キャンプの若者たちに夢を語ってもらった映像が流れました。帰国して教師や医者になりたい、そのために一生懸命勉強したいという若者、平和を作る人になりたいという若者。過去・現在の辛い体験を語るときと異なり、未来の夢を語る彼らの表情は、とても明るかったことが印象的でした。
続いて、JPF南スーダン支援プログラムについて、板倉純子 ジャパン・プラットフォーム(JPF)海外事業部チームリーダーから紹介がありました。JPFとしては2006年から南スーダンを支援しており、現在は5団体がケニア、ウガンダ、南スーダン、エチオピアで支援活動を展開しているとの紹介に続き、活動内容の詳細な事例が紹介されました。紛争に巻き込まれた子供への支援では、エチオピアの難民キャンプに小学校高学年を対象としたクラスを設置した例、ウガンダの難民キャンプや南スーダンの国内避難民のキャンプで子供の遊び場を提供した例などを挙げました。また、被害を受けた女性たちへの尊厳回復キットの提供や、家事などで休みがちな女子生徒への補習授業を行い、女性への支援を行っていることも報告しました。
続いて、南スーダンでは情勢の悪化に伴い、ジュバ以外での邦人スタッフの活動が不可能になっていることに触れ、各団体はケニアからの遠隔管理を行うなど出張ベースでの活動を行っていることに言及しました。このように和平進展も道半ばであることから、JPFとしては南スーダンに対して3年間の支援プログラムを決定したことを述べました。
続いて、これまでの議論を受け、コメンテーターのモハメド・オマル・アブディン東京外国語大学特任助教が、今回上映されたビデオからは見えなかった重要な視点を提供し、視野を広げる議論を展開しました。
左:モハメド・オマル・アブディン(東京外国語大学特任助教) 真ん中:中村夕貴 ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)
右:板倉純子ジャパン・プラットフォーム(JPF)
1点目として、ビデオに登場した若者が皆JPFのサービスの受益者であると同時に英語が話せる人(=ある程度高いレベルの教育を受けている人)たちであることに触れ、難民としての支援を受けられない残りの南スーダンの人たちに思いを馳せるよう訴えました。「夢は難民キャンプに行くこと」という若者がいるほど、難民キャンプに入れた「難民」とそれ以外の人々で格差が発生していると指摘しました。
次に、中途半端な教育支援では結局医者や教師になるというような夢もかなえられず、同時に伝統的な生業を営む知識・能力も不足しているという、どちらの方向にも進めない若者が生まれることを指摘し、単に識字率を上げるためだけの支援は不十分であることを指摘しました。また、従来の教育に加え、伝統的な牧畜に関する知識をあわせて教えるような多面的な教育の重要性を説きました。
また、日本のNGOの活動に関して、識字率などわかりやすい指標による事業評価へ流れてしまう現状を鑑み、政府や民間からの助成で活動している関係上成果を迅速に上げる必要があるNGOの状況を変えていかなければといけないと述べました。失敗を許容できる社会でなければ、日本のNGOの成長は望めないとの懸念を示し、日本のNGOは効率の良い支援を目指して、失敗をも堂々と語れるようになってほしいとの期待を示しました。
最後に、難民が戻ってきてからの南スーダンには、どのような人々によって社会が構成されているかという点について解説しました。1グループ目は、内戦中に近隣国に逃れ、国際NGOから高いレベルの教育を受けた人の多い難民で、彼らは英語も使えるため社会階層の上の方へ行きやすいと説明しました。2グループ目として内戦中に南スーダンに残った人を挙げ、彼らは国内に残ったという自負を持ち牧畜などの伝統的生業の知識を持つ一方で、1グループ目ほどの教育を受けていないことが多く、社会階層的に上位へいける者が少ないと指摘しました。3グループ目として、紛争中に北部スーダンへ逃れた人を挙げ、彼らは帰国後も南スーダン社会に関する知識が乏しく、英語ができない人が多いため、階層的には1,2グループよりも下へ追いやられていると述べ、階層による分断が起きている現状を分析しました。
最後に、ファシリテーターである中村シニア・プログラム・オフィサーは、アブディン氏のコメントを受け、難民キャンプにいない人についても支援をしたいが、治安等の問題で実現できていないというジレンマについて語り、第一部を締めくくりました。
続く第二部は、篠田英朗 東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授が基調講演を行い、先行きの見えない南スーダンの現状を「入れ子型紛争構造」と指摘し、国際政治学者から見た南スーダンでの紛争の現状や、今後の先行きについて講演を行いました。
篠田英朗 東京外国語大学大学院総合国際学研究科教授
最初に2013年12月の「衝突」以降の経緯を紹介した上で、治安の悪化が進む現状を鑑み、武力紛争が再発する可能性が極めて高いことに懸念を表しました。紛争の当事者、調停者、関与者が多い構造についても解説し、キール大統領とマシャール副大統領という対立構造のままでは今後和平が進む展開が見通せないため多数の関与者を巻き込まざるを得ない状況に触れ、この「権力分掌型」の和平合意がベストではないが、現状他に選択肢がないという現状について説明しました。
続いて、国際社会の南スーダンへの関心について、国際連合南スーダン派遣団(UNMISS)が増員傾向であり人道支援も盛んに行われていることを紹介したのに続き、南スーダン向けのODAのデータを示し(全世界からの南スーダン向けODAは48億米ドル、このうちアメリカからの拠出は18億米ドルだが、日本は5.5億米ドルに留まる)、国際社会の関心が高いことを紹介しました。
続いて、篠田教授は南スーダンの紛争の特徴を「入れ子型」と表現し、その特徴について述べました。分離前のスーダンには、南北間での紛争が多いために南スーダンを分離させたという経緯があります。分離後、今度は民族分布の複雑な南スーダン内部でも紛争が続いている状態ですが、南スーダンをさらに分割すれば解決するのかというアプローチに対し、これではまったく解決にならないとことを述べました。このように、紛争を引き起こしていた問題を一つ解決しても、ふたを開けると同じような別の問題がそこにあるという現状を、篠田教授は「入れ子型紛争構造」と表現したのです。民族対立以外にも、権力闘争や地域格差、脆弱経済などの観点からも紛争が起きやすい現状について解説がありました。
また、この紛争には国際的な面として、オサマ・ビン・ラディンを匿っていた政権が北側で続いていること等を例として挙げ、対テロ戦争とも無関係ではない現状にも触れました。
以上をふまえて、今後の国づくりにあたって、制度の仕組みなど南スーダン独自の国づくりが必要であると提唱し、南スーダンの当事者とも今後何が「南スーダン独自」なのかを考えていきたい、と今後の課題についても言及しました。また、今後としては若者の可能性に言及し、前政権からのつながりのある人に頼るだけではなく、「しがらみのない人」に南スーダンの将来を担っていってほしいという展望も述べました。
この後、参加者より現場からの報告及び基調講演の内容に関する様々なコメントや質問が寄せられ、活発な議論が展開されました。
シンポジウムを締めくくるに当たり、永井秀哉 東洋学園大学大学院現代経営研究科教授/JPF理事は、シンポジウムのビデオ上映で流れた若者たちに未来を切り開く強さを感じたと述べ、今後も支援を続けるという強い意思を、支援する側が持ち続けることが大切だと訴えました。また、現地での日々の人道支援の継続のみが、若者のケイパビリティの開拓への道であることを強調してシンポジウムを総括しました。
永井秀哉 東洋学園大学大学院現代経営研究科教授/JPF理事
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