(3) 武装・動員解除、リハビリ・社会復帰(Disarmament, Demobilization, Rehabilitation and Reintegration (DDRR))プロセスについて
和平プロセスにおける元兵士の武装・動員解除は公式には2004年10月31日で終了し、102,000人が武装・動員解除したが、リハビリ・社会復帰プロセスの遅延が懸念されている。8月24日現在で、37,500人の元兵士がリハビリ・社会復帰プロジェクトに参加しており、さらに35,448人が国連開発計画(UNDP)の運営するDDRR信託基金によるプロジェクトでカバーされているが、26,000人強の元兵士はいまだにリハビリ・社会復帰プロジェクトに参加できずにいる。
(4)選挙関連※3
UNMILのレポートによれば、10月11日に投票が行われる予定の選挙の準備は、特段の暴力的な状況等もなく、予定通りに進んでいる。8月6日に立候補者の届出が締め切られ、8月15日にそれぞれ22名の大統領候補と副大統領候補が選挙管理委員会に承認され、22政党が登録を行い、選挙キャンペーンが開始された。上院への立候補者が205名、下院への立候補者が513名となっている。
これまでのところ、選挙関連での極端な治安の悪化は報告されておらず、順調に選挙プロセスが進めば、2006年1月に新政権が発足することとなる。
※3 Eighth progress report of the Secretary-General on the United Nations Mission in Liberia, S/2005/560参照
4. 援助関係者の動向
上述の通り、10月に予定されている選挙後、新政権発足は来年1月の予定であり、ドナーである米国開発援助庁(USAID)、UNMILを初めとする国連機関も、復興へ向けたより中・長期的な支援計画の策定は来年以降を予定しており、現段階では方向性の確認が困難である※4。
2005年7月7日に会合が開催され、国連開発援助フレームワーク(UNDAF)プロセスは間もなく開始されるとのことだが、決定までには6ヶ月ほどかかる見通しである。また、2006年からの5ヵ年計画となる国家復興計画(National Recovery Planning)は、6ヶ月以内を目処に策定される予定とのことである。
中・長期的な支援枠組みについては、来年の新政権の発足を待つことになるが、現地で活動している援助関係者が指摘する援助を実施していく上で重要なポイントは、以下の通りである。
(1)国内避難民、難民、元兵士など様々なカテゴリーがありうるが、どれか一つのグループを対象にして他のグループを排除するのではなく、「コミュニティ」を基本としたアプローチ(community based approach)によって、帰還先コミュニティ全体の受入能力を高め、帰還民の再定住を促進していくことが、平和定着の観点からも重要である。
(2)限られた資金・人員で有効に支援を行っていく上で、援助コミュニティ内でのコーディネーションが不可欠である。現状では、支援ギャップを特定することすら難しく、行政機構がうまく機能していないことを考えると、共通のデータ・システムを構築し、各機関が集めた情報を共有していくことが急務である。
※4 USAIDによる支援は現在「移行期サイクル」(2004年7月から2005年12月まで)に入っており、この期間中により緊急性の高い人道支援は徐々に少なくなり、来年以降、より開発援助に近い性質のプログラムが増えていく見通しである。
5. まとめ
(1)JPF緊急・人道援助の出口プラン
2003年8月に和平合意が成立し、10月に暫定政権が樹立されたのを受け、2004年2月上旬に「リベリア支援国閣僚級会合」がニューヨークで開催されたが、ジャパン・プラットフォームではその直後に初動調査ミッションを派遣し、3月には第一期支援を開始するなど、迅速に、かつインパクトのある規模での政府資金の拠出が決定された結果、現地では、初期段階からJPF参加のNGOによる活動のビジビリティが非常に高い。また、その後も第二期、第三期と政府資金の拠出が継続され、支援ニーズの高い困難な地域での援助を継続して行っていることで、受益者、現地行政府、国連・ドナー国など他の援助関係者からも高く評価されている。
9月現在、PWJ、WVJの二団体による第三期支援事業が終了に近づいているが、10月には選挙が行われ、その選挙結果を受けて、来年以降、まさに国を挙げて復興へのトラックを進めるかどうかというところで、一年半にわたり継続してきたJPF支援が途切れてしまうのは、これまでの実績を考慮すると、タイミングの悪い感は否めない。新政権が成立して、国際社会の支援を受けながら様々な基盤・体制整備へ向けてようやく動き出すと想定される時期をカバーするタイミングをもって、JPFのリベリア人道支援プログラムの終了と捉えることは、緊急・人道援助から移行期を経て、復興支援の枠組みへとつながる切れ目のない援助の実施というJPFの目的にも適い、長期的な観点からみて初期の緊急・人道援助での投入の効果が高まると考えられる。
(2)NGOの今後の活動計画と現地での連携体制
(イ)PWJ
難民・国内避難民の帰還スケジュールの見通しを立てることが難しい中、UNMILのジョンソン氏(Mr. Denis Johnson)によれば、帰還民へのシェルター支援は非常に重要なセクターであるものの、雨、道路状況等困難な条件が多いセクターである。最も多数の帰還民が戻るとされているロファ州内で、フォヤ郡、コラフン郡でシェルター支援を行っているのは、現在のところPWJのみである。 例えば、PWJの事務所があるヴォインジャマから事業地であるフォヤ郡への移動は、劣悪な道路状況のため、まだ通行不可能であり(9月3日現在)、UNHCRによるギニアおよびシエラ・レオネからのこの地域への難民の移動については、この3週間延期となったままである※5 。このように、もともと条件の悪い道路と橋の状況が雨季の開始でさらに悪化し、支援活動の進捗状況に大きく影響しており、PWJによる第三期支援事業も遅延している。また、事業地へのアクセス確保のために必要な、橋の修復に関する計画変更を申請中のため、現在、事業が一時中断状態となっており、事業期間延長は避けられない状況である。
困難なオペレーションとなっているが、JPF第一期で支援したヴォインジャマを拠点に、JPF第三期支援ではフォヤ郡にも拠点を確立して、フォヤ郡とコラフン郡をカバーし、今後は、そのフォヤ郡からさらにヴァフン郡へと展開してシェルター建設支援を継続することを計画中である。
また、PWJはUNHCRの帰還支援事業のパートナーとして、シェルター建設支援の他に、トイレ建設、井戸整備、衛生教育、学校修復・整備、ウェイ・ステーション運営を行っており、JPF支援事業と国連機関との連携事業を合わせて、総合的な帰還民支援を実施しており、その手法は先述のコミュニティを基本としたアプローチとなっている。これらの実績をもとに、来年の新政権発足後をにらんで、より長期的な支援事業計画を準備中であり、既に外務省の日本NGO支援無償資金協力へ事業計画を提出するべく、情報収集、関係者との協議、ニーズ調査等も進めている。
(ロ)WVJ
WVJはJPF第一期支援で農業支援を通じた帰還民支援を実施し、グランド・ケープ・マウント州の5県497ヵ村を対象とした。第二期支援からは、支援対象を5県の中からポパ県とテウォ県の2県に絞り(他の3県についてはパートナーであるワールド・ビジョン・リベリアが引き続き支援)、第三期支援では、井戸の修復・設置、トイレの設置等の水・衛生分野の支援、学校修復および道路の修復事業を実施しており、帰還民を受け入れるコミュニティをベースとした支援を展開している。また、支援を行う各コミュニティでコミュニティ保健委員制度を作り上げており、これまで支援を実施したコミュニティでの活動の持続性が高く、また、WVJの事業が同地域で継続しているので、事業後のモニタリングも併せて行われており、コミュニティの自立の可能性を高めている。
WVJは、ワールド・ビジョン・リベリアとの連携枠組みを軸に、世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(UNICEF)などの国連機関とも連携しながら事業展開しており、JPF事業をもとに支援活動の範囲を広げている。 第三期では2県内の29カ村で支援を実施したが、第三期支援と同様の支援内容に保健・衛生促進活動、井戸補修管理トレーニングを加えて、さらに周辺のコミュニティをカバーする形で支援を継続する計画である。
来年以降のより復興期支援の展望としては、引き続きこれまでJPFで支援してきた2県を対象に、これまでの水・衛生分野、学校修復、道路修復からセクターを拡大して、技術トレーニングや農業復興支援等も含めたコミュニティ支援を行う予定で、外務省の日本NGO支援無償資金協力へ事業計画提出の準備を進めている。
(3)JPF事業の改善点
リベリアのように長期にわたる内戦終結後、暫定政権のもとで行政機構がほとんど機能せず、基本的なインフラ乏しく、治安状況も安定しない国で支援活動を行うのは容易ではないことは明白だが、今後のJPF事業の改善可能な点として、以下の点を指摘したい。
リベリア人道支援のように継続して事業展開を行う場合には、継続実施のメリットを最大限に活かして、事業計画の精度を徐々に上げ、事業実施者とJPF関係者との間の情報共有量を増やしていくことが求められる。事業計画においては、事業を行うことの正当性を明らかにするために、その事業が取り組む具体的な問題点、支援対象者を明確に定義する必要がある。その上で、何を達成するのかという事業の目的、どのような成果が得られるのかという事業の結果、その結果に到達するために必要な活動内容を事業計画の中で組み立て、いつまでに、誰が、どこで、何を、どのくらいの数量を行うのか、ということについて明確にする必要がある。
事業実施の具体的なタイムフレームとともに、事業実施中に適切なタイミングで、その計画の進捗状況や問題点などが分かるように、事業目的に対する(量的・質的)指標とその指標が示すものを確認する方法についても定義しておく必要があると思われる。
また、事業を実施するために最低限必要な前提条件についても計画の中で明らかにし、それへの対処方法についても可能な範囲で想定しておくことも、事業実施中に直面する問題に対処する際に、JPF事業関係者が共有できる情報量を増やすことに役立つと思われる。
リベリアのような事業実施環境では、計画時に数値を積み上げても、実際のオペレーションでは状況によって、様々な変更を余儀なくされる可能性が高いが、事業開始後の具体的なタイムフレーム、活動内容の具体的な手順、何が不確定要素なのかも含め、可能な限り多くの情報を事前に共有することで、変更事項にも的確に対応できる可能性が高まると思われる。また、事業期間については、延長が避けられない状況は当然ありうるが、一方で、不確定要素も考慮した上で、計画段階で、設定した期間内に終了する可能性を高める検討も必要かと思われる。
JPFリベリア人道支援プログラムは、JPFによる初期段階での投入により、NGOの現地での事業実施能力が確立されたことによって、国連機関との連携がスムーズに進むなど、今後、初期の人道支援が途切れなくより長期的な支援の枠組みへとつながるように、ある程度成果を見据えた案件形成を目指す一つのモデル・ケースと言えるだろう。
また、より柔軟な事業実施を行う上で、JPF資金のみでなく、他の資金源の可能性を追求することが今後の課題といえる。
6. 添付資料
(1)別添1:ピース ウィンズ・ジャパン調査結果
1. 事業目的
JPF第1期および第2期支援で協力関係を築いてきたUNHCRと連携しつつ、ロファ州への難民・国内避難民の本格的帰還のための支援事業を行う。JPF第1期、第2期で確立したモンロビアおよびヴォインジャマの基盤を活用し、フォヤ郡およびコラフン郡へ支援を拡大し、難民・国内避難民の(1)帰還先村落での復興のためのシェルター建設支援、および(2)橋修復を、フォヤ郡およびコラフン郡にて行う。
2. 現地事情
UNHCRに登録されているリベリア難民の約35%※6、国内避難民の3割以上※7がロファ州出身であるといわれている。またPWJが支援を展開するシエラレオネに滞在するリベリア難民の約53%がロファ州出身であると推定される※8 。2004年10月1日に安全宣言が出された7つの州へのUNHCRによる帰還支援※9が始まったが、2004年12月末現在、ロファ州の安全宣言は行われていない。しかし、雨季の終わりに伴い、ロファ州に15,000人以上が既に自主的に帰還したとみられている※10。また、ロファ州の安全宣言もUNMILによるDDRRが10月末で完了したことから、近日中に行われる予定である。
2004年5月末にロファ州を訪れたUNOCHAミッションの報告書※11にも、帰還環境の整備が急務であると明記されており、同州においてNGOによる住環境整備事業の継続・拡大が期待されている。その中でも、ロファ州北西部に位置し、シエラレオネとギニア国境に接するフォヤ郡は内戦による被害を多く受けており、紛争前の人口密度がロファ州の中で最も高かったことから、本格化する帰還に伴う支援のニーズが最も高いことが見込まれる。さらに、フォヤ郡は主にシエラレオネからロファ州に帰還する多くの難民が経由する地域である。一方で、フォヤ郡にベースを置くNGOはまだない※12。
※6 UNHCR, Regional Multi-year Operations Plan for the Repatriation and Reintegration of Liberian Refugees and Internally Displaced Persons (2004-1007) August 2004.
※7 IDP Return Survey of Official Camps - Liberia Preliminary Report May 2004 (OCHA/UNHCR - Liberia)
※8 UNHCR, Regional Multi-year Operations Plan for the Repatriation and Reintegration of Liberian Refugees and Internally Displaced Persons (2004-1007) August 2004.
※9 ここでの帰還支援は「Facilitated repatriation」を指す
※10 Global IDP Project, "Liberia: still too soon for IDPs to return home?" September 2004.
※11 OCHA Voinjama Mission Report (July 2004).
※12 GTZ、ACFやMSFはフォヤ郡に展開しているが、ベースを置いていない
3. 事業概要
(1)シェルター建設支援(住環境整備)
フォヤ郡およびコラフン郡に帰還した難民・国内避難民約1,000世帯を対象に、帰還先村落におけるシェルター建設支援を行う。本事業では、住宅再建に必要な道具(ツール・キット)、屋根資材の一部(ルーフ・キット)を段階的に1,000世帯に提供する。
(2)橋整備・修復
ロファ州の主要幹線道路や主要な橋はUNMILによって修復される予定であるが、主要幹線道路から帰還先の村落への道は整備されていない。これらの道路に架かる橋は、状態によりトラックが通行できなくなっており、支援物資が届けられない村落が多くある。これらの橋を修復することにより、支援物資の運搬を可能にするのみならず、今後帰還民の生計復興に必要となる市場へのアクセスを容易にする。帰還の状況を見ながら5箇所の橋を選定し、修復・整備する予定である。
4. 変更申請
(1)事業内容の変更:資機材の性格変更 橋修復 5本→橋修復 18本
(2)事業期間の延長:変更後の事業終了:平成17年10月30日
(2)別添2:ワールド・ビジョン・ジャパン調査結果
1. 事業目的
戦争によって破壊された、難民、国内避難民等の帰還先コミュニティの生活環境、インフラを整備することにより、昨年10月より開始された国連機関などが支援する本格的な難民・避難民の自発的帰還及び再定住を支援、促進する。長じては、コミュニティ復興への基盤をつくることを目的とする。
2. 現地事情
国連リベリア・ミッション(UNMIL)の全国的な展開と2004年10月31日を以って正式に終了したDDRR(武装解除)で約96,000人の元武装兵士が武装解除したことによって、より安定した生活環境が整備されつつある。リベリア国内の治安の安定化に従って、国連等の支援による難民や国内避難民の帰還が始まっている。これまでに近隣諸国(ギニア、シエラレオネ、ガーナなどの西アフリカ諸国)からリベリアへ帰還した難民数は12月現在で150,351人※13と言われている。
水と衛生施設、学校、支線道路及び丸太橋の修復への緊急支援は、新しく帰還した住民を安住させる上で必要不可欠な要素であり※14、且つ故郷を離れて避難民生活を行っている人々に対して故郷への帰還への意欲を与える意味でも第2期に引き続き支援が必要であり、国内避難民、難民帰還事業成功の鍵となる。また本支援は帰還先のコミュニティ、リベリア難民・国内避難民、元武装勢力兵士などが融和を図り、コミュニティを再建するための基盤作りとしても大変重要である。
※13 UNHCR Liberia Office, "Statistics on people of concern to UNHCR"による。この内訳は、自発的な帰還者概数145,197人、国連などの支援による帰還者数5,154人(2004年12月現在)である。
※14 UN (2004): Consolidated Appeals Process (CAP) West Africa 2005, p11による。
3. 事業概要
第2期事業では、トイレ、井戸の設置・修復を実施したが、実施地の住民の強い要望があり、第3期事業も同修復を引き続き実施する。また、学校の修復を実施するとともに、テウォー県とポパ県を結ぶ道路状況の悪い地域(バター・ヒル、マンボ・ヒルなど)の支線道路、丸太橋の簡易修復を合わせて実施する。
4. 変更申請
事業期間の延長申請中(変更後の事業終了:平成17年9月30日)。