NGO能力強化研修プログラム

米国・オレゴン州・ポートランドのMercy Corps本部にて
「HEATセキュリティ・トレーニング」開催

イベントレポート

米国NGOのMercy Corps米国本部にて、6月3~5日・8~10日の日程で開催されたHEATセキュリティ・トレーニング(※1)にJPF加盟NGOより4名が参加しました。

緊急人道支援活動を取り巻く環境が複雑さを増す昨今、個人としても、団体としてもセキュリティ対策の重要性は高まる一方です。JPFが2月26日にセキュリティ・コンセプトなど基本を学べるワークショップを開催したのも、そのような情勢を鑑みてのことですが、より包括的なセキュリティ・トレーニングに対するニーズは高く、また日本国内でそのようなトレーニングは限られています。そうしたことから、今回Mercy Corpsの協力を得て、部分的ではありますがそのニーズに対応する企画を実施する運びとなりました。

このトレーニングは、① 6/3-5、または、② 6/8-10の2回、それぞれ3日間で、米国・オレゴン州・ポートランドにあるMercy Corps本部にて開催されました。本トレーニングは、ハイリスクエリアで働くMercy Corpsの職員を対象として開催されたもので、JPF加盟NGOからの参加者についても「ハイリスクエリアで活動している」、または「活動する予定がある」NGOスタッフが参加しました。

※1 Hostile Environment Awareness Training (HEAT)

レポート1~4は、①6/3-5(前半組)に参加したJPFスタッフから、
レポート5~6は、②6/8-10(後半組)に参加したJPF加盟NGOスタッフからのレポートです。

レポート1:初日の様子

レポート1:初日の様子

研修初日は、ドミノゲームと呼ばれる楽しい自己紹介ゲームを通して、世界中で4,000人、本部だけでも250人もいるスタッフの中から集まった20人ほどの参加者との顔合わせを行いました。そうしてリラックスした雰囲気が作られた後、早速本題であるセキュリティ・トレーニングが開始されたのですが、最初の内容はMercy CorpsのGlobal Security GuidelineとMOSS (Minimum Operation Security Standard)の国別の例についての説明でした。ハイリスクエリアへの派遣前準備として一般的なPEST (Political Economic Social Technology)分析の説明を受けた後は、国別にグループに分かれ、それぞれの国に派遣されたときのRisk(SafetyとSecurityの両面で)分析を行いました。その後は、JPF加盟団体も加入している国際的なSafety・Securityサービスの使い方や事前準備についての説明、続いてFirst Aidの概要についての講義を受けました。

レポート2「トラベル・セキュリティ」に続く

レポート2:3つの想定場面における対応

初日後半の内容は、トラベル・セキュリティでした。まず最初に「空港到着後の移動時」、「ホテル滞在時」、「勤務時間外の外出時にスリに遭ってしまった」という3場面の想定で、それぞれチームに分かれて注意すべき点を織り込み寸劇を行いました。この寸劇では、表現力、内容、ユーモアの3要素において審査があり、チーム対抗で点を競ったのですが、我がチームは0.5点差でトップには至りませんでした、残念。ちなみに私は「空港到着後の移動時」のグループで、ドライバー役を演じました。いろいろな場面で注意すべき内容としてあげられていた例としては、危険地におけるスタッフの位置確認にスマートフォンでGPS位置追跡を利用するなどテクノロジーを有効活用しているかどうか、ホテルの部屋のドアを開けられないように簡易ロックを設置する、また、仕事用のパソコンをホテルに持ち帰らなかったかなど、細かいものでした。

レポート2:3つの想定場面における対応

次に、自動車での移動におけるセキュリティ対策を学びました。テロなどの危険性がどうしてもハイライトされがちな緊急人道支援業界ですが、実は最も死亡例が多いのは交通事故ということで、自動車での移動について基本の確認を徹底的に行いました。 初日最後のセッションでは、チェックポイント通過時の注意点について細かい説明を受けました。チェックポイントの前200m、50m、チェックポイントのそれぞれにおいて、異なる注意点を学びました。

レポート3「武器・兵器の基礎知識/実践編」に続く

レポート3:実践編

研修2日目は、weapon awareness(武器・兵器の基礎知識)を中心とした内容で、緊急人道支援の現場で遭遇するかもしれない危険に関する実践的なトレーニングを受けました。
概論の説明に始まり、その後チームによる2種類の実践トレーニングへと移りました。一つ目のトレーニング内容は、手榴弾が投げ込まれたときの対処として床に素早く伏せるというものです。

レポート3:実践編

次いで、車で移動中に銃撃に遭った場合にどのようにして車から脱出して身を隠すのかという訓練が、実際の車両を用いて行われました。訓練を通して、焦らずにシートベルトを外して車から地面に身を移動させ、車を盾にしつつ銃撃がきている方向とは反対の方向にほふく前進で退避することが重要ということを学び、また反射的にその行動がとれるようにチーム全体で練習しました。さらには、車から出ずにそのまま全速力で現場を脱出する訓練も模擬的に行いました。

レポート3:実践編二日目後半は無線を用いたコミュニケーションの練習、続いて誘拐されたときの振る舞い方を理論から学び、最後は初日にチーム対抗で競いながら練習した応急処置を再実践しました。今日はけが人役に志願し、右こめかみから出血、左手首を失い、右足首を痛めているという想定で、応急処置を受けました。
実践も踏まえながらの大変充実した内容で貴重な機会となりました。

レポート4「シミュレーション/総集編」に続く

レポート4:シミュレーション

最終日となる3日目は、総集編として、これまでに学んだ内容をフィールドで実践するシミュレーションが行われました。より実際の現場に近い環境を作り出すためペインティングボール会場を利用し、俳優がペイント弾や車両を用いての本格的なトレーニングでした。移動中での襲撃や予期せぬさまざまなタイプの襲撃に対して、身体が適切に反応できるような訓練を繰り返しました。シミュレーションを通しての大きな学びは、仲間が負傷した場合、襲撃されている中で迅速に行動を起こすことが最も重要だということです。チームだとどうしても議論になってしまい行動するまでに時間がかかってしまいます。しかし、それでは手遅れになってしまうので、自分の考えを短く端的に伝え全員で素早く適切な判断をすることが、自分を含めたチームメイトの命を守る最大の秘訣になります。ただ、極限の恐怖に追い込まれた時に、冷静に行動することは頭で考えているよりはるかに難しいということも痛感しました。

レポート4:シミュレーション

また、このシミュレーションからの学びを通じて、地雷と不発弾の見分け方、手榴弾の避け方、衛星電話、無線やB-GANの使い方など、自分の身を守る具体的な方法、さらには、最悪の事態に陥ってしまった際の応急処置、救命措置を学んでいきました。そして最後は、全員でトレーニング全体を振り返り、精神的にも肉体的にもハードな3日間のプログラムを終えることとなりました。

レポート5「個人の視点による振り返り(後半組)」に続く

レポート5:個人の視点による振り返り(後半組)

HEATセキュリテイ・トレーニング第2弾は、第1弾研修に引き続き6月8日から10日の3日間、米国オレゴン州のMercy Corps米国本部にて実施されました。
研修内容は第1弾の研修と同じですが、当然のことながら参加者の面々は違っています。約20名の参加者のうち、2名がJPFから派遣された日本のNGO(AAR Japan [難民を助ける会]、ピースウィンズ・ジャパン Peace Winds Japan)からの参加者で、他は各部署から集まったMercy Corps本部付のスタッフでした。
3日間の研修の最初の2日は、本部の会議室で、主に駐在国の治安対策のための分析や救急セットの内容確認、けがの際の救急セット使用による応急処置の実践、誘拐された時の振る舞い方や避けるべき態度と行動、手りゅう弾が飛んできたり戦闘に巻き込まれた際の対応などを話し合ったり、練習をしました。
治安対策で一番大切なことは、危険を避けること!そのために、治安の情報収集や状況と動向の分析は非常に重要です。また、運悪く問題に巻き込まれてしまった時のために、効果的かつ効率的に対応するための方策を考えたり、必要な準備をしておくことは、治安対策のみでなく、事業運営やその他多くに当てはまる基本であることを再確認しました。

レポート5:個人の視点による振り返り(後半組)

また、臨機応変さも大切です。救急セットの中に必要な薬や備品がないという想定外の状況でも、身の回りにあるもので、骨折した腕やねん挫した足を固定する方法を迅速に考えて処置できるかどうか。場合によっては、その場に伏せて身を守りつつ状況を観察するのか、走って逃げ去るのか。これらの問いに対する正しい答えは、きっと無いのでしょうが、臨機応変に決断して即座に行動する必要があることも学びました。

レポート6「組織の視点による振り返り(後半組)」に続く

レポート6:組織の視点による振り返り(後半組)

HEAT研修の初日、2日目は、トラベル・セキュリティ(移動時の安全確保)、応急処置、武器・兵器に関する基礎知識、襲撃や誘拐に遭遇した際どの様に反応すべきか等、座学と実践を交えて、緊急人道支援の現場における安全対策について学びました。

レポート6:組織の視点による振り返り(後半組)

言うまでもなく、安全対策の基本は「自分の身は自分で守る」という考えにたどり着きます。職員一人ひとりが赴任地の政治的、経済的、社会的状況をきちんと把握し、その環境や文化を考慮した行動を心がける必要があります。例えば、自分の体質に合った薬を忘れずに携帯したり、緊急連絡先を随時更新したり、大気汚染がひどい場所に渡航する場合はマスクを、マラリアやデング熱のリスクがある場所に渡航する場合は蚊帳を準備したりするなど、個人レベルの意識、判断、そして対応法によって身の安全が左右されます。
その一方で、組織として何が必要とされるのかも考えなくてはなりません。安全対策をより強化するための人事体制や、職員同士の日頃からの情報共有・コミュニケーションは欠かせません。
今回の研修ではMercy Corps本部の職員が20名近く参加しましたが、ハイリスクエリア担当者に加え、広報部、経理部、人事部など、幅広い部署から参加者が集まりました。安全対策は現地に直接関わっている職員だけではなく、組織全体として強化していく必要があります。例えば、広報担当者は緊急時のメディア対応策を考えたり、経理担当者は安全対策経費が予算から漏れていないかを確認したり、人事担当者であれば職員一人ひとりの重要情報を誤りなく管理する等、それぞれが安全対策に係る職務を担っています。それを各々が自覚して貢献し、より良い組織作りに取り組んでいくことが組織全体の安全対策強化には肝要です。
この研修を通じて、安全対策に関連する実用的な知識およびスキルを身に付けられたのはもちろんのこと、世界中で活動する人道支援従事者と事例を共有することでお互いの経験や教訓から学びを得ることができたことは大きな収穫でした。このような実技・講習を含む包括的な研修は、個人レベルだけでなく、組織レベルによる安全対策の重要性の理解を深めることができる素晴らしい学びの場であると感じました。

こうして、6月3~5日・8~10日の日程で開催されたHEATセキュリティ・トレーニングを、JPF加盟NGOより参加した4名が無事に終え、帰国、または担当フィールドへ戻りました。今後、4名には所属団体はもとより、JPF加盟団体全体のセキュリティ対策の向上に寄与すべく、トレーニングの学びを広く共有していただくことになっています!

■本トレーニングは、JPFがMercy Corpsとパートナーシップのもとで実施している「TOMODACHI NGO リーダーシップ・プログラム(※2)」の一環として実施されます。

※2「TOMODACHI NGOリーダーシップ・プログラム」について:
「TOMODACHI NGOリーダーシップ・プログラム」とは、米日カウンシル(US-Japan Council)主導のTOMODACHI イニシアチブ、ならびにJ.P.モルガンの支援を受け、JPFが米国のNGO団体マーシー・コー(Mercy Corps)とのパートナーシップのもとに実施している研修事業です。

東日本大震災におけるNGOの支援活動から得られた貴重な経験や教訓を活かし、日本のNPO/NGOが国内外でより効果的な人道支援活動を行うための能力強化を目的としており、2013年4月~2016年3月までの3年間で、人道支援に関するさまざまな研修を計画、実施しています。

概要

◆◆J.P. Morgan & TOMODACHI Initiative X Mercy Cops & Japan Platfor◆◆
Hostile Environment Awareness Training (HEAT) Security Training
at Mercy Corps HQ, in Portland, Oregon, U.S.A.
1) June 3-5 or 2) June 8-10

期間 1)2015年6月3日(水)~6月5日(金)
2)2015年6月8日(月)~6月10日(水)

※1)、2)のいずれかをお選びください。なお、ご希望に添えないこともありますので、あらかじめご了承ください。
※この日程には、出発・帰国日は含まれていませんのでご注意ください。
内容
  • Impact of mission and mandate on security
  • Pre-deployment preparation
  • Context and risk assessment
  • Basic first aid
  • Travel Safety (airport, checkpoints, car jack, etc)
  • Weapons awareness
  • Communications and incident reporting
  • Kidnap and abduction
  • Journey planning
  • Psychological resilience
  • Evacuation
  • Simulation exercise and debrief
渡航先 米国・オレゴン州・ポートランド
費用 無料
※米国往復航空運賃(上限あり)、米国国内宿泊費、ESTA(渡航認証)申請費用、保険料、米国滞在期間の日当(注)は JPFが負担します。
注)日当はMercy Corpsの規定額に基づき、米国ドルで支給されます。
定員 若干名
※厳正な審査の上、参加者を決定します。
応募資格/条件
  • Applicants must be currently working or very likely to work in high risk areas.
  • Applicants need to have strong English skills.
  • Applicants must be currently employed by the NGO and intend to remain employed by that NGO for the foreseeable future.
  • Must be endorsed by the applicant's employing NGO.
  • Applicants must have experience as an emergency responder.
  • Applicants must have an outgoing and active attitude.
  • Applicants must agree to attend planning and debrief meetings before and after.
  • Participants need to complete feedback form upon return.
  • Participants need to bring the learnings from the training back to their organization and utilize skills to enhance organization operations.
  • SG/CEO must write a separate letter of reference explaining why they think it is important for the applicant to attend the training.
応募方法 応募用紙にご記入の上、応募受付期間内に
training@japanplatform.org 宛てにお送りください。
※応募用紙はメールにてお取り寄せください。応募用のwordファイルをお送りいたします。
応募書類 添付の申請書と共に、以下の4点を含んだ500wordsの英文エッセイをご提出ください。
  • Your experiences in emergency response -what, where, how long etc.
  • The reasons why you feel that you need this type of training.
応募受付期間 2015年4月3日(金)~4月16日(木) 正午
※締切厳守

本件に関するお問い合わせ先

特定非営利活動法人(認定NPO法人)ジャパン・プラットフォーム

NGO能力強化研修プログラム担当:鈴木さおり、藤原智美
E-mail:training@japanplatform.org
〒102-0083 東京都千代田区麹町3-6-5 麹町GN安田ビル 4F
TEL:03-6261-4751(事業部直通) 代表:03-6261-4750 FAX:03-6261-4753